【追悼寄稿】樹木希林さん、京都で語る・後篇
2018年9月15日、女優・樹木希林さんが亡くなった。このインタビューは、7月末日、映画『日日是好日』の記者会見がおこなわれた京都・建仁寺で、月刊誌『ミーツ・リージョナル』のために収録したものだ。記事はすでに本誌に掲載されているが、誌面の関係で、樹木さんが語ってくれた一部しか載せられなかった。
そこで、ミーツと同じ会社であるLmaga.jp編集部に相談して、もう一度書かせてもらった。この記事は、本来考慮すべき構成や編集を脇におき、あの夏の日の京都で、樹木さんがなにを語ったのかをできるだけ伝えることを目的とした。なので、重複したり、余分なところもあるが、あのときの樹木さんの様子を少しでも思い浮かべることのできるものになっていたら、幸いに思う。
取材・文/春岡勇二
「なかなかいないのね、人に興味のある監督って」(樹木希林)
──『万引き家族』では松岡茉優さんともご一緒されていて、松岡・黒木・多部という実力派の若手女優との共演が続いていますが、いまの20代の女優さんたちに対してなにか印象みたいなものは持たれていますか?
若かろうが歳とっていようが、その人の生き方が全部芝居に出てくる。芝居を観れば、その人がどうやって生きてきたか分かるし、逆にこうやって生きてきたから「ああ、こんな芝居になっちゃったんだ、残念だね」っていう人もいる。ただ、私も含めて人間なんでね。いつも完璧なわけじゃないし、あのときの芝居はよかったけど、今度はいまひとつだねってこともあるから。あの人はいいけど、あの人は駄目なんてことは簡単には言えないですね。
──確かにそうですね。以前、お仕事は来た順番に引き受けているとおっしゃってましたが、今もそうですか?
今はほとんど断ってる。
──そうなんですか。そのなかで、これさえクリアされていたら引き受けるという、基準みたいなものはありますか?
勘、みたいなものね。あとはやっぱり主役の人かな。その人がこれまでの仕事で見せていた雰囲気みたいなもの。
──前作の『モリのいる場所』(2018年5月公開)も含めて、近頃の作品ではその勘は間違っていないですね。
うん、ここのところはね(笑)。ただ、これまででも、出た後で「ああ、これは間違っていたなあ」と思う映画はありましたよ。でも、いつもこの映画は最高の作品になるだろうと思って出るわけじゃないからね。「まあ、これでローンも払えるし、いいか」っていうぐらいものですよ。
──なかにはそういった作品もあったと・・・。
ほとんどがそうですよ。そういった作品をやってきた。ここ10年かな、少し考えるようになったのは。映画に軸足を移してからですね。勘で選びはするけれど、そりゃあね、60年もやっていると、だいたい結果は見えますよ。どんな映画になるかっていうね。
──では、『万引き家族』も『モリのいる場所』も、だいたいご自分で思われたような作品に仕上がっているわけですね?
そうね、いいところはいいし、駄目なところは駄目だしね。
──駄目なところもありますか?
そりゃあ、みんなありますよ。
──資料を読むと、『モリのいる場所』は樹木さんも褒めてらっしゃるようですが。
あれはね、役者としてうれしい仕事だったってこと。この歳になって、山﨑(努)さんと2人でお芝居ができると思わなかったから。あとは(沖田修一)監督が、人を描くことに興味のある人だったから。なかなかいないのね、人に興味のある監督って。
──そうですか?
いない。いないなあ。CGに興味のある人はいますけどね。どういう人間を描きたかったのかが見えてこないっていうのはありますね。
──そういう意味でいうと、『日日是好日』の大森立嗣監督はいかがでしたか?
この人はね、おうちがね、過激だから(大森監督の父は、舞踏家で俳優の麿赤児)。たぶん、人もたくさん出入りしている賑やかなおうちだったと思うのね。だから、今回の主人公の、典子のおうちみたいな人の数の少ない、なんでもないおうちは経験がなくて描きづらいんだろうなって思ってた。
──経験がないからこそ、描いてみたかったのかもしれませんが。
うん、想像でね。是枝(裕和)監督は人間の日常をリアルにリアルに積み重ねていくけど、大森監督はそういうのは苦手なような気がする。私は嘘はつきたくないから。でも、演出しているところを見て、ああ、この監督さんはいい人だなあってずっと思って見てました。
映画『日日是好日』
2018年10月13日(土)公開
監督:大森立嗣
出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、ほか
配給:東京テアトル、ヨアケ
テアトル梅田、なんばパークスシネマ、イオンシネマほか
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