【追悼寄稿】樹木希林さん、京都で語る・後篇
「昔の雰囲気が残っている街はいいですね」(樹木希林)
──これから後も、年に数本は映画に出演される予定ですか?
これから?あ、もう決めてない。もうあなた、いつ儚くなるか分かんないのに、そんなもの決められないわよ。私、この宣伝活動でひと区切りだから。もう、(身体に)鞭打ってここに来てるのよ(笑)。
──夏の京都はキツイですよね。
いや、そんなことない。実は一昨日、ニューヨークから帰って来たのよ。
──あ、そうなんですか?
うん、なにかね、映画のトロフィーくれるというものだから。どうするかなあ、と思ったんだけど。まだ、元気だったときに(行くと)決めたから。約束は約束だから、「行きます」って。
──そううかがったら、今お元気ですよね。
元気じゃないわよ。このまま臥せってくださいって言われたら、「ありがとうございます」って言って臥せっちゃう。普通はさ、役者なんて、元気じゃなくても元気ですって見せたいって言うけど、私は全然見せたくない。さっきもね「もうこのバスから降りたくないなあ」とか「また乗るのぉ~」っていうのを見せてるのに、「お身体、大事にしてください。じゃ次行きます」って、な~んにも大事にしてくれない(笑)。まあでも、私もその立場だったら同じようにするだろうから、誰にも文句言わない。
──記者会見でおっしゃってた、身長が7cm縮んで、体重が10kg減ったというのは。
ほんとうなのよ。歳とってから病気すると大変なのよ。でもね、そうなったことで、映画で武田先生を演じていて、こそっと着物が着られるようになったのよ。昔、おばあさんが小さくなった身体で、大き目の着物をこそっと、ていう感じで着ているのを見て「ああ、いいなあ」って思ってたのよ。それができるようになった。だから、今の状況もわりかし気に入ってるの。嫌じゃないの。そこで「私、元気です」なんて言う気持ちはまったくない。「よれよれです」って言う(笑)。
──確かに小さくなった身体で着物をしゅっと着こなしたりすると、かっこいいですよね。
そうだね。いまは役でもね、着物を着こなすみたいなことはなくなってきているものね。こういうのも日本の文化でね、あったのにね。
──映画のなかの武田先生の着物も素敵なものばかりでした。
うん、あれはね、映画のオフィシャル・アドバイザーで、ここの取材(京都の建仁寺)も仕切ってくれたね、観世あすかさんという方のお母さまのものを借りてるんですよ。
──そうなんですか。
そうそう。あのね、私個人の着物はね、(着ている着物を指して)こうやって少しケレンがあるの。役者が着るにはね、こういうのが面白いと思うから。でも、これはお茶の先生の役では使えないの。お借りしたものは、ものも良くってね。映画のスタッフが持ってくるのは、積んであるもののなかから選んでくるから、「あぁ~ん、あぁ~ん(嫌そうな感じ)」って言っちゃうものなのよ(笑)。
──いや、映画を観ていて、衣装の宮本(まさ江)さん、またいい仕事したなと思っていたんですけど(笑)。
宮本さんはさ、「作りますよー、作りますよー」って言うんだけど、作るのもまた色決めたり面倒だし。だから「あるなかでやろうよ、どうせ予算もないんだし」って言ったのよ(笑)。
──やっぱりいい着物は、何十年経ってもいいんですね。
うん、そういう時代にね、みんな着たんだなあっていう感じが残っているのね。柄行とかね。地味だけど。
──映画のなかのお茶室の雰囲気にぴったりでした。外から差し込む光と同様、武田先生の着物もまた、きれいに季節を反映していて。
そうね。でも、私が気に入っているというわけではないの。ひとりの役者が個人的に集めたものは、とてもじゃないけど、こういう作品には合わなかった。
──わかりました。映画については、いまうかがったことでまとめられると思います。あと本誌(ミーツ・リージョナル)では、インタビューさせていただいたみなさんに、関西の思い出とか、よく行かれる場所とかをうかがっているんです。
そうですね、京都はね、個人美術館で「何必館(かひつかん)」というところ。あそこは京都へ来たら、必ず寄ります。神戸は、私が長いこと横浜に住んでいたので、戦後すぐに両親が大衆酒場を始めてね、だから戦争で焼け野原になった横浜のね、ひゅっと見たら港がずーっと奥まで見える、なんていうのかな、ちょっと異国情緒のあるね、あの街の思い出があってね、神戸に行くと似た雰囲気が残っていていいですね。いまは日本中、同じような景色の街になっちゃてるけど、昔の雰囲気が残っている街はいいですね。
──ほんと、そうですね。
大阪だとね、夫(内田裕也)が堺の出身なので、実家にまだおばあちゃんが生きてらしたときは、ずいぶん行きましたよ。大美野っていうところ。内田裕也は大美野幼稚園の出身ですから(笑)。堺もね、昔のものが残ってますよね。あそこは古墳があるから、古墳なんて一見、邪魔ものみたいだけど、あれがあるから昔のものが壊されずに残っている。素晴らしいことですよ。
※同記事は、7月31日に取材したものです。樹木希林さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。同インタビューをまとめた記事は、2018年10月1日発売号の『ミーツ・リージョナル』に掲載中。
映画『日日是好日』
2018年10月13日(土)公開
監督:大森立嗣
出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、ほか
配給:東京テアトル、ヨアケ
テアトル梅田、なんばパークスシネマ、イオンシネマほか
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