現代の要素を融合、山本太郎の日本画展

2018.11.3 08:00

《羽衣バルーン》2014年 能楽「羽衣」がモチーフ。双方向型の作品で、手前の風船はひとつだけ持ち帰ることができる。その代わりに、会場に設置された風船を作って補充する

(写真4枚)

伝統的な日本画の技法・素材と、現代の風俗や景観が融合した「ニッポン画」を描く山本太郎。彼の近年の活動を紹介する展覧会が「あまらぶアートラボ A-Lab」(兵庫県尼崎市)でおこなわれています。

彼の作品は、松を描いた金屏風の中央に信号機が描かれていたり、尾形光琳の国宝《紅白梅図屏風》の水流が有名な清涼飲料から流れ出ているなど、引用と寓意に満ちています。美術通は過去の名作を参照しながら鑑賞しますが、美術史を知らない人でも彼のハイブリッドな絵画世界はキャッチーで、ハードルを感じずに楽しめます。その間口の広さこそ山本作品の魅力と言えるでしょう。

ところが近年、山本は新たな方向性にも可能性を感じているようです。それは自分とゆかりのある地域に根ざしたプロジェクトを手掛けることです。本展では、彼の故郷「熊本」、長らく教員を務めていた「秋田」、そして彼が学生時代を過ごし現在も住んでいる「京都」にちなんだ作品が展示されています。

《アケオメリクリ》記録映像より、昨年の展覧会中におこなわれたクリスマスパーティーで、秋田舞妓が舞うシーン

展覧会の冒頭を飾る《アケオメリクリ》は、昨年末から今年1月にかけて秋田で発表した作品の新バージョンで、その展示風景を記録した映像には、秋田舞妓が舞う姿が映っています。《熊本ものがたりの屏風》は、2016年の熊本地震で被災した襖表具材料店から、廃棄する予定だった屏風などを譲り受けて修復し、公募で集められた熊本の人々の思い出の品々を描いたものです。また《平成版八木沢番楽幔幕(かみこあにプロジェクト2017)》は、秋田県上小阿仁村八木沢地区に伝わる郷土芸能「八木沢番楽」のために新調した幔幕で、原画、それまで使われていた古い幔幕、上演の記録映像とともに展示されています。

このように、地域の記憶や文化に寄り添い、共感を込めて描いた作品を楽しめるのが本展の見どころです。関西に住む我々には縁遠い地域も登場しますが、心配はご無用。誰でもスムーズに作品と向き合えます。その理由は、郷土を愛する心に地域差などないからでしょう。また、作品を通して山本の真摯な姿勢が伝わってくるのも大きな魅力です。入場無料、期間は11月25日まで。

取材・文・写真/小吹隆文(美術ライター)

『A-Lab Exhibition ♯15  山本太郎展 時代とあそぶ たびする つくる』

期間:2018年10月6日(土)~11月25日(日) 
時間:11:00~19:00(土日祝は10:00~18:00)※火曜休
会場:あまらぶアートラボ A-Lab(兵庫県尼崎市西長洲町2-33-1)
料金:入場無料
電話:06-7163-7108

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