駿河太郎「あまり人を信用していなかった」

2018.11.11 06:00
(写真4枚)

「関西の視聴率男」と呼ばれ、カリスマ的人気を誇った故やしきたかじんさん(享年64)。その知られざる半生を再現したドラマ『なめとんか やしきたかじん誕生物語』が11月20日、カンテレ開局60周年特別ドラマとして放送されることに。主人公・たかじんを演じるのは、数々の映画やドラマで存在感を放つ俳優・駿河太郎。誰もがプレッシャーを感じるであろうその大役について、駿河に話を訊いた。

取材・文・写真/田辺ユウキ

「たかじんさんがテレビで画期的にやり出した」(駿河太郎)

──このドラマでは、若き日のたかじんさんが浮浪者が持ってるシュークリームを分けてもらおうとしたら「素人が食ったら腹を壊す」と忠告されたり、警察官の職務質問に「歌手」と答えたら「お前なんかテレビで観たことないぞ」と嘲笑われるシーンが描かれています。

はいはい、ありますね。

──つまりこのドラマ『なめとんか やしきたかじん誕生物語』は、たかじんさんが「アマチュアとプロの狭間」でもがいている物語なんですよね。

そうですね。たかじんさんは20代前半にして、祇園のクラブの専属歌手として生計を立てられていて。僕から見たら、それだけでメシが食えるのは立派なプロ。自分は33歳頃まで東京でバイトをしていましたから。朝ドラ(2011年『カーネーション』)出演が決まり、撮影で1カ月半ほど大阪に滞在しなきゃいけなくなって、そこでバイトを辞める決断をしたくらいで。貯めていた少しのお金を生活費にして、覚悟を決めて大阪へ向かいました。でも朝ドラの後、CMも決まり、役者だけで何とかやっていけるようになり、プロとしての実感を持てました。

カンテレ開局60周年特別ドラマで主演をつとめる駿河太郎

──職業を問われたとき、「役者」と言えるようになったのですね。

そうですね。そのあとドラマ『半沢直樹』(2013年)もあり、少しずつ自分のことを知っていただけるようになった。でもたかじんさんは、歌でお金はもらっていたけど、決してレコードが売れていたわけではなくて。その劣等感はあったんじゃないでしょうか。その現状にイラついていたと思うんです。

──たかじんさんは上京しても、そのイラつきが継続しますよね。たとえばアニメの主題歌(1981年の『砂の十字架』)に抜擢されても、「これは自分のやりたい歌じゃない」と認めなかった。で、大阪に帰ってくる。

その気持ちはすごく分かるんです。僕もミュージシャンとしてメジャーでリリースしたのですが、全然売れなかった(※taro名義でソロ活動、sleepydogとしてバンド活動をしていた)。「君の作詞・作曲は売れないから、カバー曲をやった方がいい」と言われて。そこで吉田拓郎さんのカバー曲をやって、音源としては最高のものができあがった。だけど、それはやっぱり自分から出たものではない。結局は僕の力不足で売れなかったので、「やりたいことをやります」と言って事務所を辞めたんです。

キングレコード・竹中(左・西村和彦)とやしきたかじん(右・駿河太郎)

──たかじんさんもそういう気持ちを抱えて、東京から大阪へ戻り、そして大ブレイクします。自分のやりたいことと、プロの仕事としてやるべきこと、その両方をやっていきますね。

上京したときの経験があったから、『東京』を歌えたんだと思います。若いときのたかじんさんだったら、「何で俺がこんな歌をやらなアカンねん」と言っていたかもしれない。でも見事に歌い上げる。つまり、本物のプロになった時期ですよね。MC、パーソナリティとしても大阪で認められてきて、そんな口の悪いオッサンが美しく歌い上げる。そのギャップ、自分の魅せ方をたかじんさんはちゃんと計算されていたと思います。

──このドラマは、音楽面も非常に重要です。

いやあ、音楽をやっていて良かったなって思いました(笑)。経験していなければこの役はできない。もちろん、ギターを当て振り(演奏しているフリをすること)でも成立はするだろうけど、やっぱり僕が歌って、ギターを弾かないと物語として説得力がない。リアリティをもって観ていただけるはずです。

──説得力を持たせる、というのは演じる上で大変な作業ですね。

たかじんさんや、ファンのみなさんに怒られないくらいの歌の芝居はできたかな、と。特に歌っているときの仕草、お辞儀の仕方はかなり勉強しました。駿河太郎という役者が演じた、たかじんさんとして成立しているんじゃないかなって思います。

──たとえば、司会者としてのたかじんさんの動きって特徴的でしたよね。芝居する上でかなり研究されたんじゃないですか。

そこは完全に真似てやりました。『たかじん胸いっぱい』(カンテレ)で実際に放送されていた「外国人から見た大阪」というVTRに対する、たかじんさんのリアクションとか。あと、カメラへの寄っていき方ですよね。指し棒をさして、カメラに近づく輩(やから)のオッサンなんてこの芸能界にはいないじゃないですか(笑)。たかじんさんには、きっとカメラの奥にいる視聴者が見えていたんだと思います。

──たしかに!

自分から視聴者に寄っていくのは、たかじんさんがテレビで画期的にやり出したこと。芝居をしながらそれに気づいたんです。「あ、これはカメラの向こう側を見てはるわ」って。

『カンテレ開局60周年特別ドラマ なめとんか やしきたかじん誕生物語』

放送:2018年11月20日(火)・19:00~20:59(関西ローカル)
出演:駿河太郎、中村ゆり、大東駿介、山口智充、西村和彦、石田明(NON STYLE)、ほか

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