「洗骨」の映画人・照屋年之に迫る/前篇

2019.3.20 19:00
(写真8枚)

「映画は真面目、映画は七三分けです」(照屋監督)

春岡「俺らみたいに映画ばっかり観てる人からしたら、後半は要らないかな。今は、説明過多な映画が多いから、それと比べたら全然過多ではないんだけどさ。ちょっと難しい判断だよね」

照屋監督「いろんなプロデューサーから、『ゴリさんは、トゥーマッチが多い』ってよく言われるんですよ。要するに『観客はバカじゃない。考えると。なのにあなたは全部を提供しすぎだ』と。その言葉をいつも思い出すんですけど」

斉藤「トゥーマッチな監督はいっぱいいるけど、照屋監督は結構削ってるでしょ?」

春岡「『洗骨』はそんなにトゥーマッチではない。ラストの筒井さんのナレーションも、なくていいと思うけど、決してトゥーマッチとは言えない」

妻の死をきっかけに自堕落な生活を送る父・信綱役の奥田瑛二 ©『洗骨』製作委員会

照屋監督「奥田さんにも言われました。『本当に君は無駄なカットを撮らないね』って。普通は心配になるんですけど、僕が『ここ以外は要らないんで、OKです。次、行きましょう』って言うのが気持ちいい、と」

斉藤「それは照屋監督が的確に計算されてるからでしょ。あれだけの短編を経た経験や、現場の空気を察知する感覚も含めて」

照屋監督「でも、奥田さんに『無駄なカット撮らないね』って言われた後の、『ここ撮っていいですか?』と言えない空気たるや・・・(苦笑)」

一同「ハハハ(笑)」

照屋監督「『逆に言えなくなった!』みたいな(笑)」

田辺「そこはいいじゃないですか」

照屋監督「インタビュアーさんに、『奥田さんも監督されてるから、ダメ出しとか結構あったんじゃないですか?』ってよく聞かれましたけど、監督業については一切口を出さないです。『俺は監督をやってるから、監督の気持ちがよく分かる。だから、俺はこの現場ではお前に全部従う』って」

春岡「でも、それは当たり前なことであって、照屋監督だって、ほかの現場に行って『俺は監督をしてるから』みたいなことは思わないでしょ?」

照屋監督「そんなこと全然思わないですよ」

斉藤「照屋監督は、演出が丁寧なんですよ。 短編を観ても思ったけど」

照屋監督「映画は真面目ですね、映画は七三分けですから(笑)」

斉藤「今回、頼まれて『洗骨』の公式サイトにコメントを寄せたんだけど、ある種日本映画では数少ない真面目な宗教映画やなと思ったんですよ」

田辺「宗教映画ですね、たしかに。沖縄は基本的に仏教ですか?」

照屋監督「沖縄は祖先崇拝です」

斉藤「仏教というわけではなく、 アニミズム(すべてのものに霊魂が宿る、という考え方)に近い感じですか?」

照屋監督「仏さまに頼むより、仏壇でご祖先様にお願いごとをするという」

斉藤「そか、仏壇はあるんですもんね」

田辺「『洗骨』のなかでも、家の真んなかに大きな仏壇がありましたね」

沖縄の人の信仰について語る照屋年之監督

照屋監督「沖縄は仏壇が大事なんです。仏壇で家族の人生が動きます。お盆、正月、あと4月の『シーミー』っていう清明祭。春から命が動き出すので。そのときは、お墓のなかに一族全員が集まって宴会をするんですよ」

斉藤「沖縄独特の、あのでっかい家みたいな墓でね」

照屋監督「そうです。沖縄は祖先崇拝です。だからまず、お願いごとがあったら、神様より先に仏壇に手を合わせて、『ご先祖さま、お願いします』と」

春岡「なるほど、そういう思想なんだ」

照屋監督「でも、神社もお寺もあるんですよ。明治以降、そういう日本の文化が入ってきたから初詣とかも行きますけど、基本的に祖先です」

──そのあたりを踏まえて、また『洗骨』を観ていただければ、新たな発見もあるかと思います。そして、さらに過去の短編や『南の島のフリムン』を観てもらえたらね。

春岡「俺は『洗骨』を観て、こりゃ全部観ないといけないと思ったもん。観られてないのは申し訳ないけど」

照屋監督「ああーうれしい!ぜひ観てください!」

春岡「忙しくて、『born、bone、墓音。』しか観れなかったのは本当に申し訳ない。あれ、タイトルの最後の『墓音』って、墓の音じゃないですか。あれが長編になったら母の恩。つまり『母恩』。それをあてはめてもいけるなって」

田辺「あっ、うまいっすねー(笑)」

照屋監督「うまい!!」

春岡「ちょっと考えたんだ(笑)」

照屋監督「それいい! タイトル変えますよ!」

【後篇に続く】

映画『洗骨』

2019年2月9日(土)公開
監督:照屋年之
出演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、ほか
配給:ファントム・フィルム

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本