「洗骨」の映画人・照屋年之に迫る/後篇

2019.3.21 19:00
(写真6枚)

「気づくようで気づかない一言ですよね(笑)」(田辺)

春岡「映画作家として、本当に上手い。で、最初に『洗骨』を観たときに気になってたことが、後から観た『born、bone、墓音。』ではないのよ。短いから。監督が笑いを入れたいのは分かるんだけど、もう少し笑いを省いた方がいいと俺は思うんだよね」

──心地よかったはずの第2の自宅ですが、きびしい意見も出ました。

照屋監督「分かります、分かります。全然ウェルカムです」

斉藤「僕は反対に、どんな深刻なシーンでも笑いでいちいち落としてくれるのが気持ちがいいんです」

春岡「俺はちょっと多いかな、というね。ただ、ちゃんと動と静のシーンの配分が計算されてて、そのバランスは抜群! おそらく、シナリオ(脚本)と編集が好きなんだろうなとは思ったけど」

照屋監督「そうですね、僕、脚本を書くのと編集が大好きです。僕にとって映画は表現なんですね。腕があろうがなかろうが、その表現が100%に近いカタチでお客さんに届けられたかどうかの話であって。タレントとしての僕と、映画監督としての僕は、全然アプローチが違うんです」

田辺「そうですよね。そうじゃなかったら、『南の島のフリムン』から10年の間に、あれだけ短編を撮らないですよね」

照屋監督「やらないです。なにも分からず撮り続けてた頃は、いっぱい怒られてたんですよ。もうトゥーマッチだと。それが最近、やっと分かってきたというか。それまではもう恐すぎて。全部入れてました(苦笑)」

田辺「でも、そのトゥーマッチと言われがちな説明的なシーンでも、ちゃんとオチを用意してますよね」

照屋監督「だって、恐かったですもん。ずっと!」

斉藤「でも、安全牌というだけじゃない気がする。どれだけこっちが切ない気持ちになってても、思いがけないオチがあるというのは充分に作家的ですよ」

田辺「あと、ビジュアルでも笑わせてくれるのが僕は大好きで。『born、bone、墓音。』でもそうでしたが、近眼で太ってるとか。今、こんなご時世だから、それができる人がなかなかいなくて。『税金サイボーグ・イトマン』でも、犯人がデブだったり」

斉藤「あれね。あれはちょっとやらないよね、誰もね」

照屋監督「僕が好きだったのは、ブスって言われることをコンプレックスに感じている女の子が、『お前はブスじゃない』って言われて、『私、ブスじゃないの?』『そう。お前はデブだ!』っていう。あれをやりたかったんですよね。あのひと言を言いたいがために、映画を作ったような気がするんですよ。自分にとっては、たまらないボケで(笑)」

田辺「最高ですよね。あれ、気づくようで気づかない一言ですよね(笑)」

地域発信型映画として製作されたゴリ監督の『税金サイボーグ・イトマン』

──僕ら笑いに関しては素人ですが、笑いと泣きって紙一重じゃないですか。笑いを入れていくことでどんどん哀しみが増していく、みたいなこともありますよね?

斉藤「まさにマキノ雅弘やん」

田辺「そう、僕もそう思ったんですよ」

照屋監督「僕ね、関西の人が言う『笑いの素人』なんて言葉を一切信じません! いやいや、全然プロじゃん、あんたたち厳しいじゃん(笑)。全然気が抜けないですよ」

春岡「トゥーマッチの話でいくと、映画には抜いていいところと抜いてダメなところがあるわけで。さっき(前篇)話した小魚のシーンは、あの撮り方でいいわけなんですよ」

斉藤「その、抜くシーンの取捨選択がすごいのが、北野武監督なんですけどね」

春岡「『あの夏、いちばん静かな海。』なんて、もうほとんどパーフェクトだよな」

北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海。』(DVD)

斉藤「あの映画で世界を風靡したんですから。抜き、とにかく抜き。全盛期の北野監督はめちゃくちゃ上手い」

照屋監督「相米監督とかはどうですか? 僕、めちゃくちゃ感動するんですけど」

斉藤「もちろんです。あれほど映画の運動性に徹した監督はなかなかいない」

春岡「『ションベン・ライダー』なんてさ、あの木場のシーンだけで、映画はこれだよねって思わせてくれるというか。人間が木材から落ちたり上がったり・・・それをずっとやってるだけで。じゃあ、つまんないかというと全然そんなことはなくて、映画的な面白さに溢れてる」

斉藤「冷静に考えれば奇をてらったことばっかりやってるのにね」

田辺「とはいえ、結果的に映画の王道として残ってますから」

斉藤「そう。だから僕は、相米監督は神だと思ってる」

照屋監督「いや、ホント。だって僕、あの現場に居たかったですもん。どうやって撮ってんのか見たい。リハーサルから見てみたい」

斉藤「ああいうのが本当に『観たい映画』なんだよね」

春岡「俺に言わせれば、いわゆる映画的とは、相米慎二と『ションベン・ライダー』なんだから。あれが映画なんだって。テーマやストーリーなんて、もうどうでもいいっていう」

照屋監督「河合美智子さんが船から降りてくるとき、タンクトップから乳首がチラチラ見えるじゃないですか!? ・・・あれ、今だとありえないですよ。『台風クラブ』でも10代前半の女の子の乳首を見せるとか・・・。狂ってますよね? 今じゃ考えられない!」

斉藤「今だけでなく、当時でさえね(笑)」

映画『洗骨』

2019年2月9日(土)公開
監督:照屋年之
出演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、ほか
配給:ファントム・フィルム

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本