イカれた長編処女作、片山慎三監督に訊く

2019.4.29 18:00

映画『岬の兄妹』のワンシーン © SHINZO KATAYAMA

(写真5枚)

「この映画にとってどうかっていうこと」(片山監督)

──悲惨な物語なのに、なぜこれほど爽やかで明るいのかっていうのは、やはりドライヴ感がすごくあるからだと思うんですよ。特に中盤、売春を始めるあたりからエンジンがかかっていきますね。こういうユニークな題材で1本目を作ってしまうということ自体、冒険的だと思うんですけど。もうこれでやっちゃえ、って感じだったんですか?

逆に1本目だから、絶対にもう2度とやらないようなことをやろうかな。って感じですかね。

──妙にちっちゃくまとまったものなんか作りたくないって感じでしょ? そんな新人なんて面白くもなんともないですもんね。

そうなんですよ。だから思いっきりやった方がいいかなと思って、今あまりやらないことをやろうかなと。

──まあ、いつの時代もやりにくいみたいなことになってますが(笑)。小説だったらまだそこそこクリエイティヴィティに自由がある気がするけど、映画は難しくなっていく一方ですもんね。だからポン・ジュノさんの、フライヤーやサイトで読めるコメントはまさにスゴいエールで。ちょっと感動的です。

ありがたいですねえ、本当に。

デビュー作は「思いっきりやった方がいいかな」と語った片山慎三監督

──特にポン監督は「ラストシーンが大好きだ」と言ってらっしゃいますけど。あのラストの電話のことはよく訊かれますでしょう?

ええ。誰からの電話なのかって、すごく訊かれます。僕は「観た人に委ねます」みたいな感じなんですけど・・・(ここで監督は解題してくれるが、あえてカットします)。

──じゃぁ、僕の理解と同じです(笑)。

普通に観れば・・・というか、ちゃんと観ればあれなんですけど、なかなか(苦笑)。

──意図的にあれで終わらせてるんでしょうし、「観客に委ねます」が正解なんでしょうけどね。

そうです。観たあといろいろ話してもらうのがいいかな、と思った。

──ひと繋ぎのなかで見ていると、「売春」という悪行が悪行とは言い切れないところがあるわけで。みんな一応「悪」と言ってるだけのことで、もっと正直になろうよというか、当たり前じゃないかってところに結構深い思いがみなぎっている。この兄妹に対してだけじゃなくて、すべての人間に対して監督の目線は案外あたたかい気がします。

そうでもないですけどね。そう受け止めてくれるなら、そういうことにしておきましょう(笑)。

映画『岬の兄妹』のワンシーン © SHINZO KATAYAMA

──僕はそれほどシニカルでないというか・・・今村昌平的な、虫ケラを見るような目じゃないと思うんですよ。こういう題材で笑わせようとすると、客観的で動物学的な映画になりがちなんですけど、そうではない。例えば妹・真理子が売春行為から妊娠すると「結婚してくれ」と頼む。でもそんなのするわけがない。それって当たり前のことだよねっていう。じゃあ、産むか産まないか。良夫はコンクリートを叩きつけて流産させようとする。ある種、選択肢のなくなった人間の情ですよね。

う〜ん、そうですよね。結婚するわけがない・・・確かに。産むか、産まないかですごく悩んだんですけど、やっぱり産むわけないよなっていう思いの方が勝っちゃいました。

──ドラマとしては、産むという選択肢のアリなんでしょうけど。

松浦さんは子どもが生まれたばっかりだったんで、「もう、産んだ方がいいんじゃないか。やっぱり子どもってさ、どういう状況のなかでも幸せなもんだよ」って言ってましたけど。確かにそれは分かるんですけどね。2人にとってどうかっていうのと、この映画にとってどうかっていうことですよね。

映画『岬の兄妹』

2019年3月1日(金)公開
監督:片山慎三
出演:松浦祐也、和田光沙、北山雅康、ほか
配給:プレシディオ

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