石井裕也監督「恋愛の先すら描いている」

2019.6.2 18:00
(写真3枚)

「ある意味、映画界の先輩からのお祝い」(石井監督)

──そして、2人の周囲にはとても魅力的な共犯者が集まりましたね(笑)。岩田剛典、高畑充希、前田敦子、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、松嶋菜々子などなど、超豪華。特に主役の2人の同級生を演じた前田敦子さんが面白く、その相棒役の日比美思(ひび・みこと)さんも印象的でした。

日比さんも小学生の頃から「Dream5」というダンス&ボーカルユニットで活動していた人で、前田さんもそうですけど、やはり10代の頃から厳しい世界でやってきた人というのは、人生経験においてほかの20代と圧倒的な差があります。人間として厚い。

主人公の同級生を演じた日比美思(左)と前田敦子

──そんなキャリアある共演者に囲まれた主演の2人には、どういう指導・演出をされたのですか?

ともかく必死になって、一生懸命やってくれっていうことですね、それしかないし、それがまた新人の最大の武器ですから。真っ白な2人を、経験豊かな俳優陣とぶつけて起こる反応を信じて映画を作った、というところですね。周りの俳優陣の方が大変だったと思いますよ。どう反応するかわからない、経験の浅い主演俳優と対峙するのは。

──確かに。でも、自分の監督作品でデビューしてもらうというのは、やはりその俳優さんに対して責任を負うことになりますね。

そう思います。それで、その責任の取り方のひとつとしてやったのが、この作品を35ミリフィルムで撮ったことなんです。デビュー作は人生で1本しかないし、そこで見せた芝居というのは人生で1度きりのものですから。それを撮りなおしの効かないフィルムに刻んだということです。ある意味、映画界の先輩からのお祝いというか、「ウェルカム・ドリンク」みたいなものです(笑)。彼らはまだその意味はわからないと思いますが、この仕事を続けていけば、いつか気づいてくれるかもしれない。

──デビュー作がフィルムで撮られたというのは、間違いなく2人にとって、大きな財産と言っていいものだと思います。あと、脚本についてですが、一緒に書かれた片岡翔さんとの役割分担みたいなものはあったのでしょうか?

初めに片岡さんが、原作のエッセンスを見事に抽出した脚本を書いてくださって、でも、それは少し少女マンガ的だったので、僕がそこに映画的な爆弾をいくつか仕込んでいったような形でした。

「責任の取り方のひとつが35ミリフィルム」と石井裕也監督

──劇中で2度、風船を使った印象的なシーンがありますが、あれは原作にあるのでしょうか?

ありません。あれは片岡さんが考えてくれたんです。初めて読んだとき、僕もすごく気に入って、「これ、これ」って思いました(笑)。後半の風船のシーンは、僕が少しアレンジしました。

──後半のあのシーン、僕はとても面白かったですが、なかには驚く人もいるかもしれませんね(笑)。

そうですね。でも、僕にとってはドン・ガバチョ(註)のころから見知っていた手法ですけどね(笑)。映画というのは、なんでもできる自由な表現であるべきだと思います。だからお客さんにも自由な気分でこの映画を受け取ってもらいたいです。できれば面白がって観て、すっきりして、そして、人が人を好きになるとはどういうことなのか、少しだけ考えてみる。そんなようなことになってくれたらいいですね。
(註:ドン・ガバチョは、NHK総合テレビで1964年から放送された、井上ひさし・山元護久原作の人形劇『ひょっこりひょうたん島』に登場するキャラクター)

映画『町田くんの世界』

2019年6月7日(金)公開
監督:石井裕也
出演:細田佳央太、関水渚、ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

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