十三ファンダンゴ、32年の歴史に幕

2019.7.31 17:00
(写真7枚)

キャバレーやスナックが軒を並べる立地に、1987年にオープン。以降、コアな音楽ファンを楽しませてきたライブハウス「十三ファンダンゴ」。古くはウルフルズ、最近ではクリトリック・リスなどが拠点としていた場所としても知られ、ハードコア・パンクからメロコア、ブルース、ロック、弾き語りに至るまでと、硬派ながらも間口の広いスタンスで30年以上にわたって存在感を示し続けてきた。

そんな大阪を代表する名門ライブハウスが7月いっぱいで十三での営業を終了し、10月から堺市に移転することに。1994年から店長を務めてきた加藤鶴一さんと、堺で新店長を務めることになる村上隆彦さんに、ファンダンゴ黎明期の貴重なエピソードから新天地での抱負までを、長い歴史を振りかえりながら語ってもらった。

取材・文/吉本秀純

「最初は『ココは日本なんか?』という雰囲気で、入るのもコワかったな(笑)」

──加藤さんはもともと堺市にお住まいだったんですね?

加藤「そうですよ。十三に住んではいなくて、ずっと堺から通っていたんですよね。小学生のときから地元は泉北(大阪府南部中央)で、偶然に次の移転先も20年以上住んでいる家から近所やねん。それも何かの縁なのかなと」

──「ファンダンゴ」のオープン当初は、加藤さんはお客さんとして通っていたそうですが。

加藤「そう。それまでは十三なんて1度も来たことがなかった(笑)。僕は堺でも1番南の泉北の人間やから、遊ぶにしてもミナミが多かったし。でも、好きだったバンドがツアーで来ることになって、『知らんがなこんなライブハウス・・・』と思いながら来たのが初めてです。最初は駅からすごく迷ったのを覚えているし、着いたら壁の鉄板にブワーッと落書きがしてあってね。『ココは日本なんか?』という雰囲気で、入るのもコワかったな(笑)」

「十三ファンダンゴ」のステージ。壁のペイントが印象深い

──ちなみに、そのときにお目当てだったバンドは?

加藤「フールズ(※1)ですね。もう30年ちょっと前の話ですけど。当時のファンダンゴはヨコノリのちょっと怪し気なロックバンドがよく出演していて、(ファンダンゴの自主レーベルで)昔レコードを作った大阪のバンド・ランブルフィッシュを中心にしたシーンとか、京都からもバンドがよく来てココで盛り上がっているイメージがあって。その一環でフールズが初めてココに出ることになったんです」

(※1 フールズ:ロックバンド・村八分などの流れをくむ、1980年に結成された伝説的ロックバンド)

──なるほど。「ファンダンゴ」は地理的な関係(阪急京都線で直通)で、京都との繋がりも少し強かったというか。

加藤「電車で1本やしね。あと、その頃のブッキングマネージャーが京都の子やったから、その影響も大きかったかもしれない」

──当時はまだ大阪の中心部のキタ~ミナミにもライブハウスは今ほど多くなかったと思いますが、淀川を隔てた十三というロケーションは、かなり挑戦的な試みだったと思います。

加藤「今となっては音楽ファンに認知されているけれど、初めて来た頃はホンマに『じゅうさん』と思っていたし、阪急の梅田で駅員さんに『どれに乗ったら行けますか?』と訊いたもん。『どれでも行けるよ』と言われたけど(笑)」

「当時十三には来たこともなかった」と話す加藤さん

──「ファンダンゴ」を通して、十三の街に親しんだ音楽ファンは数知れないと思います。

加藤「十三の街に若い子を連れてくるというのは、僕の前の最初の店長のときからいろいろと考えていたみたいですね。当時はやっぱりオトナの遊び場みたいなイメージが強くて、ちょっと立ち入りにくい雰囲気もあったから。だから、大阪のほかのライブハウスと比べても、ファンダンゴは独特で昔はビックリしたけど、今となっては十三の雰囲気に合うていたんやなと思いますね。いつの間にか周りにも溶け込んでいったし、それで永遠に続けば良かったんやけど、今回はオーナーがココが入っている駐車場の土地を手放したことが発端で、移転せざるをえなくなりました」

「苦情が多くて、一時期は存続が危なかったときもあった」

──お客さんだった時期から含めれば、加藤さんは30年以上に及ぶ「ファンダンゴ」の歴史をずっと見てこられたことになりますが。

加藤「そうやね。2代目として店長になったのは94年やけど、90年くらいから店にスタッフとしておったから。何かがひとつ落ち着いたら別の問題が起こったりで・・・簡単ではなかったね」

──1番大きかった問題というのは何でしたか?

加藤「やっぱり苦情やね。でも、最初の方はホントに好き放題にやってたもんな。もう防音もせんと(笑)。そら苦情も来るわと」

──ただでさえ音量がデカいライブハウスとして有名だったのに(笑)。

加藤「ただ、当時は街中が騒がしかったから、そないに言われることはなかったんですけど。でも、バブルが崩壊して徐々に周りが静かになってきて、それからすごく睨まれるようになって。一時期は存続が危なかったときもありましたね。その流れで防音工事をして今の白い壁に変わったんですけど、その前はベースドラムを踏むと、扉がポッポッと振動で開いたりしてましたから(笑)」

防音工事をする前の、鉄板むき出しだった「十三ファンダンゴ」外観

『十三FANDANGO~end roll~』
日程:2019年8月2日(金)・3日(土)
時間:2日=17:00〜23:00、3日=13:00〜21:00
場所:十三ファンダンゴ(大阪市淀川区十三本町1-17)
料金:入場無料((要ドリンク注文)

『FANDANGO 移転記念「SAIKAI THE SAKAI #1」』
日時:2019年10月1日(火)・19:00〜
会場:堺ファンダンゴ(大阪府堺市堺区戎島町5-3)
料金:前売3000円、当日3500円

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