恒例の評論家鼎談、邦画・勝手にベスト3

2019.8.3 18:00

塩田明彦監督『さよならくちびる』の成田凌

(写真12枚)

「今年いちばん『映画的な映画』やった」(斉藤)

斉藤「今年を代表することになる・・・くらいの格をもった映画ではあるよね。あと、強烈やったのが、湯浅政明監督のアニメーション映画『きみと、波にのれたら』。もうね、大恋愛映画!」

田辺「川栄李奈とGENERATIONSの片寄涼太が出てますよね」

斉藤「そう。あれも半音楽映画になってて、片寄くんがボイスをやってるから、GENERATIONSの主題歌でとにかく押していくわけよ。主人公の2人が出会って、恋愛が芽生えて、恋人同士になるまでの流れを、ふたりがボイスオーバーで笑いながらその曲を歌い合うなかで見せていくのね。これがもう幸せすぎて泣けてくる」

田辺「かなりの数のエピソードをぶち込んでましたね。膨大なハイライトシーンの波(笑)」

映画『きみと、波にのれたら』のメインビジュアル

斉藤「そしたら彼が急に死んじゃうのよ。で、彼女は廃人みたいになってしまって。そういうところもアニメーションやのに延々と描くわけ。彼女がもう海さえ見たくなくなって引っ越した部屋の隅で自分の足指をうじうじうじうじ絡め逢うのを延々と。そのあたりから、湯浅監督ならではのデフォルメされた体の動きが爆発するのよ」

田辺「そうそう。イルカの浮き輪を連れて街を歩くところなんて・・・」

斉藤「大泣きしたもん! 途中から俺、滂沱の涙(ぼうだのなみだ:涙がとめどなく流れるさま)。何回泣いたかってくらい。湯浅作品が素晴らしいのは昔から分かってるけど、2017年の『夜明け告げるルーのうた』がアヌシー(仏・アヌシー国際アニメーション映画祭 長編部門)で最高賞を獲ってから、さらに世界観が広がった感じがする」

田辺「死んだ彼氏が水のあるところに現れるわけですけど、水を使った表現というのはアニメーションならではで、『ルーのうた』でもそうでしたけど、湯浅監督はそこが上手いですよね」

春岡「水というのは、生と死の両方のメタファーだからさ。水のなかに死んだ人間が現れるなんてアニメーションでしかできないし、面白いじゃん。あと、トイレの便器のなかに彼氏が現れるのも面白かった。そうか、ここでもいいんだって」

斉藤「そうそう、水のあるところ。おかしなパースペクティブ(遠近法)をいっぱい使ってるけど、そこはもう湯浅監督だから。ラブストーリーの定型は崩さず、アニメーションならではの表現も秀逸。ただ、試写室を出たとき、どっかの代理店の人らが『GENERATIONSのプロモーション映画みたいだった』とか言ってて・・・」

田辺「わぁ、それはヒドイですね。確かに主題歌は何度も流れてましたけど」

斉藤「『どこを見てるんや、お前らは!』って説教してしまった(苦笑)。正直、この主題歌って大した曲じゃないけれど(笑)、俺は今年いちばん『映画的な映画』やったと思う。語り口もうまいし、(湯浅監督が代表をつとめる)アニメ制作会社『サイエンスSARU』のシステムがスゴいから。あそこのフラッシュアニメって、ネットに数多あるそれとはレベルが違う」

田辺「まったく別モノですよね」

斉藤「去年の1月にはNetflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』で世界配信され、今年の10月には『クレヨンしんちゃん』のシロが主演の『SUPER SHIRO』がAbemaTVで配信されるし」

春岡「完全に躁状態じゃん。体壊さなければいいけどね」

次頁:「狂騒的ではあるけどクール、かなり独創」

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