恒例の評論家鼎談、洋画・勝手にベスト3
「その見事な計算に、天才を感じさせる」(斉藤)
春岡「俺、京都の出町座で観たの、『ローマ/ROMA』と2本立てで」
斉藤「超ド級の2本立てやね!」
田辺「村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を原作にした映画ですよね。たしかNHKでドラマ版もやってませんでした?」
斉藤「そっちはまさに、村上春樹の原作に近い感じ。劇場版は、原作にない物語がいっぱい付け加えられて、トータル2時間半くらいになってる」
春岡「そうそう。後半から次第に原作と離れていって。イ・チャンドン監督独自の味で撮ったところがむしろ面白かった」
斉藤「劇場版の方が、はるかに良かった。さっきちょっと話したマイルス・デイヴィスの『死刑台のエレベーター』のサントラを流す、あのマジック・アワーのシーン! あとアジア映画でいえば、『大阪アジアン映画祭』で観たイ・ジュンイク監督の『金子文子と朴烈(パクヨル)』(2018年のオープニング招待作品)と、ウォン・ジョン監督の『誰がための日々』も年間ベストクラスやった」
春岡「『誰がための日々』って、『大阪アジアン映画祭2017』でグランプリを獲得した作品?」
斉藤「そう。まだ27歳くらいの香港の監督やけど、ショーン・ユーとエリック・ツァンを使って、超貧民層の親子を描いたリアリズム映画。とにかく映画としてスゴい! 『一念無明』って原題の方がはるかに無情感が漂ってていいんだけど」
田辺「なんかありがちなタイトルですもんね、『誰がための日々』って(笑)」
斉藤「無機質な四畳半が舞台になってるんだけど、本当に音と画が計算されてる。それでいて、閉塞感だけじゃなくて広がりがある。その見事な計算に、天才を感じさせる」
春岡「27歳って、またスゴいな、それ」
斉藤「『大阪アジアン映画祭』に行ったら、やっぱ香港すげえ!ってなるよ。もう、才能が爆裂してるからね。はっきり言って、もう『東京国際映画祭』に行かなくてもいいくらいのクオリティの高さ」
春岡「あと、言っておきたいのは、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『コールド・ウォー あの歌、2つの心』かな。モノクロの映像でありきたりな話なんだけど、すごく普通にいい。なにより役者がバツグンに上手い、男も女も」
斉藤「実のところ、これって今年上半期のベスト作ですよね」
春岡「舞台は冷戦下のポーランドで、ピアニストの男と歌手の女が、亡命先で再会して、でも、女の方が母国に帰ってしまって。今の日本だと、地味な話はウケないって風潮だけど、そんなの全然関係ない。とにかく音楽が素晴らしい」
斉藤「もう音楽映画と言っていいほど音が敷き詰められているけど、この本質は理性とかどうでもよくなるほどの男女の腐れ縁であり大恋愛。そういう意味で成瀬巳喜男監督の『浮雲』(1955年)にもっとも近い」
春岡「パリの街と、ロシアの野っ原。その対比の画が効いてうまいんだよ。ほんと、美しいんだよ、両方とも」
斉藤「そういえば、フォン・シャオガン監督の『芳華ーYouth−』は観た? 中国官製の映画なんだけど。冒頭で「中国人民解放軍八一電影製作所」の作品って堂々と出る、っていう」
春岡「官製で作りながらも、ちゃんと反体制的なメッセージのある映画だよね」
斉藤「そうそう。文化革命に揺れる、中国軍の歌劇団(文工団)が舞台で」
春岡「その劇団員たちは、軍に反発するもんな。こんなつまんない青春を過ごしているのは、国のせいだってな」
斉藤「フォン・シャオガン監督はどんどん表現が先鋭化していくのよ。それも洗練さを伴って。なかには、体制的って言う人もいるねんけど、それがわからんのよ」
春岡「いや、全然体制的じゃないよ。むしろ反体制の映画だよ、あれは」
斉藤「そうなんですよ。よくこんな反体制映画を作ったなあと思ってね」
春岡「それはまったく、そうで。ただ、最後の展開がテレビ的だなって思っちゃったんだよなぁ」
斉藤「そこは大ヒットメーカーだから、フォン・シャオガン監督の大衆的なところが出てるんだけどね。僕は嫌いじゃない。やっぱり作家やなと改めて思った次第」
田辺「ある程度出揃ったようなので、そろそろベスト3を選びましょうか」
春岡「『スパイダーマン:スパイダーバース』はまず決まりだよな」
斉藤「もちろん。あとは『グリーンブック』ちゃう?」
田辺「そして、『サスペリア』!」
春岡「いいね、『スパイダーマン:スパイダーバース』、『グリーンブック』、『サスペリア』というベスト3。順当なラインアップだと思うよ」
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