総務省vs泉佐野市、「ふるさと納税」バトルはなぜ起きた
Amazonギフト券で市税収入の約1.7倍
2018年度、「ふるさと納税」制度により、全国トップとなる498億円を集めた大阪・泉佐野市(2位が静岡県小山町の250億円であるから、ほぼダブルスコアの大差だ)。その大きな要因は、地場産品ではない牛肉やビール、さらにはAmazonギフト券という豪華な返礼品。この制度により、市税収入の約1.7倍もの寄付金を集めたこととなる。
その結果、一部有識者から「やりすぎ、趣旨に反する」「総務省にケンカを売ってる」と批判されたが、泉佐野市はことあるごとに会見やサイトで猛反論。さらには今年2月、総額100億円分を還元すると「閉店キャンペーン」をぶちあげた。その結果、6月1日施行の「ふるさと納税」新制度で、泉佐野市は総務省から除外されることとなった。
総務省の判断に怒りが収まらない泉佐野市は、直営のふるさと納税サイトで利用者17万人超に対してアンケートを実施。8月26日には、泉佐野市の主張を「支持する(どちかといえば支持する含む)」人は8割以上、総務省の規制について「賛成しない(どちらかといえば賛成しない含む)」人が8割近く、という独自調査の結果を公表するに至った。つまり、「総務省の判断は間違っている」というわけである。
Peachポイントで、ふるさと納税の寵児に
まず整理しないといけないのが、そもそも「ふるさと納税」とはどういう制度は何なのか、ということ。その名称から、故郷への恩返しとも言われているが、本来は「首都圏と地方の税収格差の是正」が出発点だ。また「納税」とうたっているが、形式としては「寄付」と「税額控除」の組み合わせに過ぎない。そのため、2008年の創設からしばらくは、なかなか普及しなかった。
制度が一躍、脚光を浴びるようになったのは、民間ポータルサイトが普及した2014年頃。面倒な手続き不要で制度を活用できるようになり、「返礼品競争」が勃発。4K液晶テレビ(神奈川・厚木市)、アップルウォッチ(福岡・直方市)、ロボット掃除機ルンバ(大阪・熊取町)など、豪華家電がズラリ。返礼品を「エサ」に寄付を募るような制度活用に、舛添要一氏はツイッターで「金持ちの『カタログショッピング』と堕したこの制度は廃止すべき」と断じている(2019年2月5日)。
泉佐野市が目をつけたのは、地元の「関西国際空港」を拠点にするLCC「Peach」の航空券が購入できるポイントだった。なぜポイントだったのか。それは、LCCが「空席連動性」という料金体系ゆえに固定料金がなく、航空券を返礼品として提供することができなかったのだ。また、当時のふるさと納税担当者が空港対策も兼務しており、泉佐野市は「関西国際空港」を盛り上げるためにも日本初のポイントの提供を2014年6月に開始。これにより前年比10倍と急拡大し、一躍全国から注目を集めることとなった。
総務省とのバトル、100億円還元キャンペーン
そんな状態に待ったをかけたのが、総務省と都市部の自治体、そして国会議員。2015年4月には総務省による返礼品規制がはじまり、以降、禁止返礼品が毎年増えていった。それにともない、各自治体も制度維持の観点から見直しに着手。そんななか、2017年9月4日、当時、就任まもない野田聖子総務大臣が新聞取材で「自治体におまかせするのが当然」と発言。すでに見直しをした自治体は困惑し、未着手の自治体は保留を決め込むなど格差と混乱が起き、総務省への不信感が募っていったのだ。
翌2018年4月には、野田大臣が「地場産品規制」を各自治体に通知。ギフト券や貴金属、宝飾品など、返礼割合の高い返礼品に規制をかける。これにより、地場産品のない自治体は大打撃に。泉佐野市はこの規制の取り下げを主張するも、同年7月には「見直しに応じない自治体」として実名を公表され、世間から大批判を浴びることとなった。そして、制度からの追放を予感した泉佐野市は2019年2月、「100億円還元・閉店キャンペーン!」と打ってでる。
たしかに、Amazonギフト券が返礼品となれば、全国から応募が殺到するだろう。その一方、泉佐野市が潤えば、そのほかの自治体の税収が減ることは明確で、制度を利用せずに税金を納めている人にとっては、住民サービスの低下を余儀なくされる。泉佐野市の行政としてのモラルが問われがちだが、総務省の後出し対策が招いた結果だけに、ルール違反をしたわけではない同市は後に引けない状態。この仁義なきバトルの落とし所はどこにあるのか。そもそも、「首都圏と地方の税収格差の是正」はどこへいった?
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