池松壮亮「新しい時代への祈りも込めて」

2019.9.29 22:30
(写真8枚)

「一ノ瀬さんと出会えたのはこの映画の幸福」(池松壮亮)

──そのあたりが一番辛い形で現れるのが公園のシーンですよね。池松さんと蒼井さんによる静かな一騎打ちなんですが、あの蒼井さんの座り方といい、池松さんの登場の仕方といい。あそこで蒼井さんが「眠れた?」というのを「よく眠れた?」という風にその場で変えたエピソードが資料にありましたが。

あれは、たしか漫画に戻してるんですよ。シナリオから原作に戻してる。たまに真利子さん、端折るんですよ(笑)。それを僕たちが勝手に戻すということはテレビのときからやってましたね。今回に限らずやってみて伝えることだと僕は思っているので。蒼井さんらしいエピソードではありますね。

映画『宮本から君へ』のワンシーン

──今回はテレビシリーズのように編年体で語らずに、現在と過去を交錯させる形で構成されてますが、それが1本の映画として濃密な効果を出していると思うんですけれど。

そうですね。今回真利子さん、おそらく書き始めてから7年間、いろんなことがあったんですけど、脚本家も変わったりしつつ、だいたい100稿くらいあるらしいんですよ。

──それはスゴいですね! 推敲の果ての果てに、ですね。

7年間ずっと関わってきましたから経過も分ってるんですが、「時制をひっくり返す」ってことが決まってからようやく、ちょっと今回の映画『宮本から君へ』の演り方が掴めた気はしましたね。

──「あんたとはこれで終わりだ!」と靖子に言い放たれる公園のシーンのすぐ後、嵐のなかで「私は命ふたつ持ってるんだ。あんたに負けないよ」と母として宣言する靖子が繋がる。編年体で語ってもちゃんとしたドラマになるんですが、この間、2人にどんな物語があったのか、どんな心の変遷があったのか気になってぐいぐい引き込まれる。

現在でも何か新たなことを抱えて乗り越えた2人が、さらに親になる覚悟を決める。で、過去は過去であのエピソードがあって。それが相乗効果になるという感じを掴めた瞬間に、ちょっといけるかもしれないっていう風になりましたね。

──まさに相乗効果というもので、決裂寸前までに至った2人と覚悟を決めた2人が同時進行で語られることで、かえって物語の全体的な力強さというか、強度みたいなものが浮き出ましたね。

いやぁ、そう言っていただけるとうれしいです。

池松壮亮が「出会えたのはこの映画の幸福」と評した一ノ瀬ワタル

──過去と現在を往還させた理由のひとつはおそらく、真淵拓馬との決闘シーンをクライマックスに持ってこなくちゃサマにならないから、というのがあったと思うんです。拓馬を演じる一ノ瀬ワタルさんって、失礼ながらこれまであまり印象に残ってないんですが、ここでは代替不能と思えるくらい見事にハマっていて。

おっしゃる通り、一ノ瀬さんと出会えたのはこの映画の幸福です。一ノ瀬さん、1、2カ月で30kgくらい増やしているらしいんですよ。そんなことをやってくれる方もなかなかいないですし・・・。もともとキックボクシングの選手なんですけど、だから本当に身体能力が高くて、それプラス30kgの増量、あの見た目。完璧なんですよ。最終の決め手はそれです。

前歯を折られた宮本を演じる池松壮亮

──あのアクション・シーンは、まさに完璧でしたよね。

あれだけ激しいアクションって、言い方が難しいですけれど、一ノ瀬さんには安心感があるんですよ、やっぱり。僕も今までそこそこアクションはやってきましたけど、圧倒的に一番上手かったです。どんなにブレても、体幹は絶対ブレないし、そういう意味では本当に救われましたね。

──あのシーンは、非常階段という高低差を活かした、非常に限定された空間でおこなわれる一連のアクションじゃないですか。しかも、ちゃんとストーリーがあるアクション振付になっていて。とはいえ、この危ないシーンは本人がやるわけないようなぁと。でも、吊されているのは間違いなく池松さんで。

全部自分でやってます。CGじゃないんですよ。まぁ、あそこをやらずして『宮本から君へ』はできないですからね。みんな祈るような気持ちで撮ってたような感じはしましたね。

映画『宮本から君へ』

2019年9月27日(金)公開
監督:真利子哲也
出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、ほか
配給:スターサンズ、KADOKAWA R15+

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