池松壮亮「新しい時代への祈りも込めて」
「映画が面白いのは、やっぱり集団芸術だってこと」(池松壮亮)
──スタッフのなかで異色なのが写真家の佐内正史さんですね。テレビ版ではあの闇雲なオープニングタイトルが鮮烈でしたが、今回はテレビ版のエンディングに準じたリリカルなスチール写真構成で。
いやぁ、最高でしたよ。雑誌の取材でお会いしたくらいで、僕が一方的に知っていただけだったんです。別に深く話をしたこともなければ、普段会ったこともなかったんです。僕、スタイリストの伊賀大介さんともやったこと無かったんですよ。
──そうなんですか? それはかなり意外ですね。
そうなんですよ。なんか交わりたいけど交わらないなぁ、と思っていて。今回『宮本から君へ』をやる上で絶対に押さえようと真利子さんと約束したのが、佐内さんと伊賀さんの2人でして。佐内さんって、『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)以来、映画の仕事から離れているんですね。で、僕はあのポスターからすごく衝撃を受けて、ああいう時代の映画を観て、映画を学んできたところがあるので、これだったら佐内さんもやってくれるんじゃないかと真利子さんと話して。スタッフで最初にオファーしたのは、その2人ですね。
──やはりそれだけインスパイアされるものがありましたか。
伊賀さんは、スーツの微妙な色合いとかシルエットとか、宮本のフォルムで宮本のなんたるかをすべて決定づけてくれましたし、佐内さんに関しては、僕はもちろん、真利子さんももちろん、思いのほか新井先生とも共鳴したんですよ。それでドラマも佐内さんが撮ることになって。エンディングに関しては、佐内さんが先生に写真を持っていって、これに言葉を書いてくれって。で、ああいうことになったんですよ(笑)。で、映画に関しては、「今回、エンドも頼む」って真利子さんが言っていたので、ある程度の準備をしていて、たぶん曲無しで作ってああいうものになりましたね。
──エンドロールでは、もうひとりの「熱い宮本」こと、ミュージシャン・宮本浩次さんとの歌とも相性抜群でしたね。
映画が面白いのは、やっぱり集団芸術だってことですね。もちろんひとつの作品ごとにベクトルはあるんですけれど、それぞれが普段抱えているもの、あるいは肉体を通して発したいもの、そういうものが表現となって集団芸術となっていく。この映画の場合、平成の終わりにやり残したことを、みんなが存分にやっているような感じがあって。また、令和元年に公開するということで、新しい時代への祈りも込めて、それぞれが言いたいことを叫びまくるというのが今回の企画だったんです。
──なるほど、平成世代の最後っ屁ですね!
そんななかで今、宮本さん、佐内さん、真利子さん、蒼井さん、僕、みんながやりたいことが、めちゃくちゃなんだけど共鳴しているというか。「あれ? みんな同じこと言ってんじゃん」みたいな気分があったんですよね。あとはお客さんがそう思ってくれれば必然になる。僕自身の話をすると、宮本という人の力を借りて、とにかく平成の意思を残すような気持ちでやりましたね。
──『極東のマンション』(2003年)からずっと同時代的に見させてもらってる者からすれば、真利子監督にとっても新境地を拓く1本だと思いますね。
そう思います。僕も真利子さんのフィルモグラフィはずっと観てますけれど、ものすごい通過点になっているんじゃないかなと。まだ2本目ですからね、メジャーデビューしてから。
──原作があるというのでも特殊なことだし、作劇的にもやったことが無いことだし、それをここまで妥協せずにやり遂げたと。
本当に、それは感謝してますね。妥協ポイントは2000回くらいあったんで、そういうところでお互いにプッシュし合って、なんとか形にできたということは、本当に感謝しています。だって、ドラマを12話全部ひとりで撮るなんてあり得ない。最初、真利子さんから「誰々と誰々の3人でやろうと思う」と言われたときに、「いやいや、ちょっと待って」と。「俺は全12話やるのに、なんで真利子さんはやらないの?」って言っちゃって。僕は連続ドラマをあまり通ってきていないので覚えてなかったんですが、ドラマって何人かで監督をやるんですよ。それを僕のひと言で真利子さんが全話やることになっちゃって(笑)。だからヒドいことしたなぁって。
──でも、それは真利子監督の覚悟だと思うし、ホントのこと言えば自分でやりたかったんじゃないでしょうかね? 何人かで演出するという連続ドラマの慣習はあっても、自分で企画して脚本を書いたものは、自ら全話撮りたいというのが本音だと思うんですよ。そういう意味でもあれは画期的なものだったと思います。
映画にすると相当なものですよね。3、4本撮ってるようなものですから。本当、ここまで来られて良かったなぁとつくづく思います。
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