今泉力哉監督「あの笑顔は演出じゃない」

2019.10.1 21:00
(写真5枚)

「三浦さんはたぶん、俺を演ってくれた」(今泉監督)

──三浦さんになにか「気づき」があったんでしょうね。

「あ、本当に自分独りでやろうとしてたかも」って思ったらしいんです。で、その翌日に、そのシーンを撮ったんですが、そしたら三浦さんがアドリブを入れたんです。これは前日に、「多部さんをもっと見て」と言ってなかったらできないやりとりだったかな、と。でも、それがとんでもなく良すぎて、「ちょっと待って。このあとにプロポーズがあるけどここで終わっちゃう。良すぎる芝居止めてもらって良いですか」って言ったくらい(笑)。

──なるほど。周りに迷惑がかかると思って、ホテルのレストランできちっとプロポーズ出来なかった、という前段階があるから。

ダメですよねぇ(笑)。どこに気を遣ってるんだ、と。

──でも、「ああ、佐藤ってこういう男なのね。だから10年も付き合ってるのにずるずる結婚しないままでいるんだ」と納得できますけど(笑)。

そういう部分って、自分は理解できる側の人なんで、だから余計に(笑)。玄関先で告白するじゃないですか。あのときに佐藤はずっとお腹痛そうに身体よじったりして、紗季に「大丈夫?」とか言われる。あれは俺が映画館でバイトしていたとき、バイト仲間に告白しようとしたとき、すごい緊張してお腹が痛くなったことがあって。そのとき彼女から「具合悪いなら早退した方がいいんじゃない?」って言われて・・・という話を三浦さんにしてて。三浦さんはたぶん、俺を演ってくれたんですよ(笑)」。

映画『アイネクライネナハトムジーク』のワンシーン

──あはは。そういうプチ・エピソード、今泉映画らしいですね(笑)。この映画は脚本・演出は当然なんですけど、貫地谷しほりさん、恒松祐里さん、祷キララさん、藤原季節さんら、できる役者さんが揃っているというのが大きいと思うんです。とりわけ矢本悠馬さんの闊達さたるや!

スゴいですよ、自由すぎて。だから、矢本さんに関しては演出しなさすぎたなぁという反省があるくらい任せましたね。まあ、それで良かったんですけど、野放し過ぎて、俺は何にも言ってなかったんで(笑)。

──でもテーマ的には、結構芯となるセリフを吐く役ですからね、彼が。

大事でしたね。伊坂さんの作品を自分が映画にすると考えたとき、気障な言葉だったり、ちょっと癖のある決めゼリフを全員に言わせちゃうとリアリティがなくなるなと思って。でも、それをひとりに集約させると上手く成り立つな、と。

──その役回りが矢本さん演じる織田一真だった、と。

一真だけじゃなくて、織田家の人はそういう決めゼリフを言っていいというルールを作った(笑)。美緒とか。そうすることでリアリティを残しつつ、伊坂さんの言葉は劇中に残ると思って。一真はガンガン気障なことを言っていい人。・・・でも、それって出来る役者さんじゃないとなんか浮いちゃうんですけど、やっぱ、矢本さんは面白かったですね。

左から、佐藤(三浦春馬)、織田由美(森絵梨佳)、織田一真(矢本悠馬)

──コメディ・リリーフであり、ある意味、物語を裏で引っ張っていく人間であり。でも実はね、矢本さんの妻・由美を演じた森絵梨佳さんにスゴみがあるな、と。僕はぜんぜん知らなかったんですが、学校のマドンナという設定も納得できる美しさだし、なんだか演技も堅実で映画を締めてるし。

実は、矢本さんと森さんは僕が名前を挙げたんです。CMで森さんを知ってて、映像で見て魅力的だと思っていたので。でもモデル業がメインの方だから、友だちのカメラマンに「森絵梨佳さんってどんな人?」って聞いたら、「なんか霧が出ているような人です。ものすごく真面目な方」という話を聞いて。お芝居の経験はそれほどなかったと思うのですが、一度顔合わせしたらプロデューサーが全員惚れてしまって(笑)。「いましたね、由美」って(笑)。

──そうは言っても、お芝居上手かったですよ。

最初は少し演じ過ぎてしまっていたけど、何をすればいいかはすぐに分かってくれてすごくナチュラルになりましたね。あと、たまたまですけど、この映画の舞台である仙台の出身だったんですよ。そこも森さんが出る意味はあるのかなと。それに実際に1歳か2歳のお子さんがいて、その説得力は大きかったですね。

映画『アイネクライネナハトムジーク』

2019年9月20日(金)公開
監督:今泉力哉
出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、貫地谷しほり、原田泰造、ほか
配給:GAGA

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本