愛希れいか「宝塚で学んだあきらめない精神」
宝塚歌劇団で月組トップ娘役を務め、2018年11月に退団した女優・愛希(まなき)れいか。入団後に男役から転向し、実力派娘役として大きな花を咲かせ、平成以降のトップ娘役として2番目の長さ、約6年半という就任期間を終えて東宝版『エリザベート』に出演。そんな愛希に少女時代のことから、退団後の心境の変化、今年東京と大阪で上演されるミュージカル『ファントム ~もうひとつのオペラ座の怪人~』への思いについてまで、話を訊いた。
取材・文/小野寺亜紀 写真/岡本佳樹
「吹っ切れてからラクになりました」(愛希)
──愛希さんは初舞台から4年目という若さで月組トップ娘役に就任。男役トップスターの龍 真咲さん、珠城りょうさんと2人の相手役を務められましたが、原点と言える宝塚歌劇との出合いは?
地元の福井での宝塚歌劇全国ツアー公演でした。小学校低学年のときに初めて観劇し、それまでは何をしてたんだろうと思うほど、宝塚歌劇にしか興味のない子になりました。
──宝塚に熱中される前は、3歳からクラシックバレエを習っていたんですよね?
そうです! 体が硬くてバレエでは苦労していました。でも、宝塚を観てからスイッチが入りましたね。もともと舞台に立つことは小さい頃からすごく好きで、発表会だけは生き生きしていました。ただ普段は、コミュニケーションが得意なほうではなかったです。
──舞台ではダイナミックな印象があるので意外です。実際に、入団されてからは宝塚歌劇の娘役の枠にとらわれないご活躍で頼もしかったです。男装のルイ14世をチャーミングに演じられた『All for One』や、ショーの『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』での、怒りを表現しながらのロケット(ラインダンス)など、斬新な役柄や場面も多かったですよね。
ちょっと変わった役柄をいただくようになって、最初は「大丈夫かな?」と不安もありましたが、そのうちに吹っ切れて、「これが自分なんだ」と思えるようになってからすごくラクになりました。自分の理想の娘役像からはかなり遠かったですが、それを「新しい」と受け入れて下さったお客さまのおかげで、私自身も楽しく感じられるようになりました。
──特に吹っ切れたのは、どの公演ですか?
ルイ14世はだいぶ吹っ切れていました(笑)。やっぱり2017年の『グランドホテル』でしょうか。
──宝塚歌劇では24年ぶりの再演となった名作ミュージカルで、伝説的なバレリーナ・グルーシンスカヤ役を演じられた公演ですね。
とても難しい役で、この役を演じるには経験が全然足りないと最初は思いました。でも、演出家のトミー・チューンさんに色々とアドバイスしていただくなかで、この役と作品への愛情を感じ、「やれるところまでやってみたい」と思うように。とても魅力的な役で、この役に出合ってから自分自身すごく変わりましたね。
──舞台人としてますます存在感を放たれていた作品でした。振りかえってみて、精神面ではいかがですか?
宝塚では礼儀から、舞台にまっすぐ取り組む姿勢まで学ばせてもらいました。みんな体育会系で、「絶対に最後までやり遂げる!」「ひとつの目標に向かってみんなでやるぞ!」という力がすごいので、あきらめないという精神はすごく学びましたし、身についたと思います。
──そして、2018年に名作『エリザベートー愛と死の輪舞(ロンド)ー』で退団。それまでは宝塚ひと筋だったと思いますが、退団後はいかがでしょうか?
ジャンルを問わず舞台をよく観に行くようになりました。時間ができたということもありますし、事務所に所属したこともあって、今まで知らなかったような舞台についても教えていただき、「それも観てみたい!」と興味が広がって。
──特に印象深かった舞台は?
野田秀樹さんの『贋作 桜の森の満開の下』は、有名な作品ですが私は初めてナマで観て、その世界観に「ウワー!」と衝撃を受けました。難しくて完全に理解はできなかったのですが、改めて世の中にはこんなにいろんな舞台があるんだ、と思いました。今まで宝塚の作品を全組観るだけでも必死だったのが、たくさんの舞台を観に行けるので楽しいです。
──そして、退団後最初の舞台が帝国劇場での『エリザベート』主演という大役に。今年6月から8月までの公演を振りかえるとどんな日々でしたか?
あっという間の3カ月でした。同じ劇場で3カ月間演じ続けること自体初めてで、どんな気持ちなんだろうと舞台に立つまでは思っていたのですが、とにかく毎日必死に演じていたら千穐楽だった、という感じです(笑)。
──宝塚でのエリザベートと、女優になってから演じた東宝版のエリザベートは心持ちも違いましたか?
全然違いました。宝塚版よりも(エリザベートの)場面が増えているし、人生がより深く描かれているので、重厚感みたいなものをすごく感じました。私は1日1回だけの出演でしたが、その1回でもズーンと体が・・・。『演じた!生きた!』という感覚で、宝塚の舞台とはまた違いましたね。素晴らしい方々と共演させていただき、そこから学ぶこともすごくありました。井上芳雄さん(トート役)なんて、もうすごすぎて! こちらが倒れないようにと、立ち向かうのに必死でした。
──同じくトート役の古川雄大さんは、愛希さんと同じように初キャスティングということで、心強い面もあったのでは?
もちろんです。古川さんも帝国劇場で主演を経験されていて、たくさんミュージカルに出演されているので、お兄さんという感じですごく助けていただきました。
──ダブルキャストでエリザベートを演じられた、宝塚の先輩である花總まりさんから学ばれたこともありましたか?
本当に勉強になりました。花總さんはエリザベートを何度も演じてらっしゃいますが、それでもなお「ここはどうしたらいいだろう」と、常に役や場面、歌や発声法について色んな方向から研究されているんですね。確かにエリザベートという役はとても難しく、追求しても追求してもわからない。ミステリアスなところがある人物だと思いますが、稽古場で花總さんとご一緒し、そのストイックで常に進化される姿にとても感銘を受けました。
ミュージカル『ファントム ~もうひとつのオペラ座の怪人~』
日程:2019年12月7日(土)~12月16日(月)
会場:梅田芸術劇場メインホール(大阪市北区茶屋町19-1)
料金:S席13500円、A席9000円、B席5000円
電話:06-6377-3800
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