上田慎一郎監督「人間は芝居して生きてる」

2019.10.19 19:00
(写真3枚)

低予算で撮ったインディーズ映画『カメラを止めるな!』(2017年先行上映)が異例のロングヒットを記録し、日本映画界に「カメ止め旋風」を巻き起こした上田慎一郎監督。その最新作『スペシャルアクターズ』がいよいよ公開される。売れない役者・和人は数年ぶりに再開した弟から俳優事務所「スペシャルアクターズ」に誘われるが、和人には極限まで緊張してしまうと気絶するという秘密があった・・・。監督・脚本・編集、さらには宣伝プロデューサーまで兼ねる上田監督に、評論家・田辺ユウキが話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ

「現場ではドキュメンタリーを撮っているつもり」(上田監督)

──『スペシャルアクターズ』はワンカットにおける情報量が非常に多い作品ですよね。たとえば冒頭で、主人公・和人が受けるオーディションの作品タイトルが『灯りをともせ!』でしたけど、これは後に、彼が持病治療で訪れるメンタルクリニックの先生のアドバイスにつながってきます。

細かいところをよく観ていらっしゃいますね(笑)。実は初稿の段階では、そのオーディションの作品タイトルも全然違ったんです。ただ、映画の方向性が見えてきて、そして自分のなかでテーマを集約していき、そういった作品タイトルなど細かい部分と主人公の境遇をリンクさせていきました。

長編第2作目となる映画『スペシャルアクターズ』を撮った上田慎一郎監督

──和人が所属する俳優事務所「スペシャルアクターズ」に貼ってあるポスターも、『初恋を守りたい』『SAVE ME』といったタイトルの作品で。これも、「誰かを救う」という物語のテーマに直結します。「スペアク」を解き明かすヒントが、背景にもいろいろあります。

ポスターの作品タイトルに関しては、すべて、「レスキュー」「守る」「救う」という感じにして欲しいと言いました。

──「スペアク」の俳優たちは、たとえば「好きな女の子の前で良いところを見せたい」という依頼主のために、チンピラを演じて依頼主にわざと撃退されるなど、芝居をうつことで誰かをサポートする。あと、登場するカルト集団も「人を救う」をいう名目で胡散臭い宗教活動をしています。

もともとは、日常生活のなかで演技をしている人の姿に興味があって、それをめぐるエンタテインメントを作ろうとしていたんです。そして脚本を書いている段階で、「救う」という題材が出てきました。

──でも、「スペアク」がやっていることもそうだし、カルト集団もそうですけど、嘘を本当に見せかけて、顧客に信じ込ませるのが仕事。というか、それこそ『カメ止め』もそういう構造でした。上田監督作品は、リアリティとフィクションの関係性を盛り込んでいますよね。

和人を演じた大澤数人くんも、実際に売れない役者なんです。そんな彼が、そのまま売れない役者の役をやる。もしこれが人気俳優であれば、売れない役者をやったときどうなるのか。売れない役者としての芝居はリアルに見えるかもしれない。でも、その存在自体が果たしてリアルに見えるか、どうか。そこは疑問です。大澤数人くんの場合は、存在自体がリアルに売れない役者ですから。

──なるほど。

僕としては、映画=嘘のなかで「本当のリアル」が顔をのぞかせてほしい。あと、撮影に入るまでは脚本を練りこんでフィクションを固めていくんですけど、現場ではドキュメンタリーを撮っているつもりでやっています。そういう意味でのリアルはやろうと思っています。

映画『スペシャルアクターズ』

2019年10月18日(金)公開
監督:上田慎一郎
出演:大澤数人、河野宏紀、富士たくや、ほか
配給:松竹

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