松本幸四郎「密室殺人の臨場感に緊張」

2019.10.22 06:00
(写真12枚)

「シネマ歌舞伎にはナビのような役割がある」(幸四郎)

──与兵衛は本当に、どうしようもない人間です。演じる際はどんなことをお考えでしたか?

1幕ではどれだけ頼りなく、ふわふわしているか。2幕目は家のなかで好き勝手している、本当にどうしようもない姿。最後は、殺すまでの心情の変化ですよね。それらひとつひとつ、台本に書いてある通りをきっちりやっていたので、自分でああしよう、こうしうとは一切考えずにやりました。

油まみれで憔悴しきった表情の与兵衛(松本幸四郎)
油まみれで憔悴しきった表情の与兵衛(松本幸四郎)

与兵衛は感情のみで生きているような男ですから、やることは全部が本当。お吉に不義を迫る場面も、直後に殺そうと思うときも、すべて真剣なんです。計画的には考えていない。そんな生き方が描かれています。

──幸四郎さんは2015年にラスベガスで『鯉つかみ』と『獅子王』を上演され、10万人を動員されました。昨今、歌舞伎をどう伝えていくかという新しい動きがさらに盛り上がっているように思うのですが、新しく歌舞伎を見せることについて、幸四郎さんはどういうふうに考えていらっしゃいますか?

歌舞伎の可能性ですよね。シネマ歌舞伎もそうですが、ラスベガス公演も単なる歌舞伎の紹介ではありません。歌舞伎の専用劇場は日本にしかないので、日本に来て劇場で実際に観ていただきたいと思っています。

「歌舞伎の可能性を探っていきたい」と意気込む松本幸四郎
「歌舞伎の可能性を探っていきたい」と意気込む松本幸四郎

じゃあ、なぜ外国でやるのかというと、外国でしかできない歌舞伎を作りたいと思ったんです。映画館で観る歌舞伎も、映画館で歌舞伎という素材をどう見せられるか、その可能性を探っていきたいと思いました。

──そうなんですね。舞台のダイナミズムももちろんありましたが、シネマ歌舞伎として見せることで『女殺油地獄』のドラマ性もすごく感じました。

近松門左衛門は、比較的ドラマ性の強い作品で、そういう作風は『シネマ歌舞伎』に向いていると思います。舞台の一番の特徴は、自分の好きな見方ができることです。主役を必ず観る必要はなくて、舞台のどこを観てもいい。

一方、『シネマ歌舞伎』は「この作品は、こう見てください」とナビをしてくれるものなんですよね。そういう意味でも、ドラマ性の強いものはさらに分かりやすく観ていただけます。歌舞伎のドラマ性を知っていただく上ではとても観やすい作品になっていると思います。

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シネマ歌舞伎『女殺油地獄』は、11月8日から28日まで全国58カ所の映画館で上演。チケットは一般2100円、学生・小人1500円。

シネマ歌舞伎『女殺油地獄』

日程:2019年11月8日(金)〜28日(木)
料金:一般2100円、学生・小人1500円

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