評論家が観るスカーレットvol.8「武志と真奈の存在感」
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第114回より、「 信楽窯業研究所」事務室前の廊下で武志と話をする石井真奈(松田るか)
数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家・ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。『スカーレット』第23週(3月9日〜14日放送)を振りかえって思うところを訊いた。
第23週「揺るぎない強さ」
なんといってもこの週、いきおい存在感を現したのが「信楽窯業研究所」での武志の同僚・石井真奈である。第19週114回(2月15日放送)で初めて顔を見せたときから、いずれ武志とそういう仲になるだろうな、と想像はついたものの(だから、もう少しボーイ・ミーツ・ガールのシチュエーションに凝って欲しかったのだが)、ここまであまりにも奥ゆかしくありすぎた。
しかし、ようやく2人は急接近。第134回(3月10日放送)では、「たこ焼作らせたら日本一!」と豪語する真奈を、武志が「それなら、たこ焼パーティやろうや」と下宿に招くが体調が悪くなって病院へ。
ところが大崎先生(稲垣吾郎)が忙しくて、帰ってしまう。気になった大崎先生が訪ねてきて、喜美子が武志の下宿に電話すると・・・、なんと調子が回復した武志が、ふたたび真奈を呼んでパーティを再開しようとしてるのだ!おいおい、やるやん武志。
心配した喜美子が下宿に駆けつけるも、まさか女の子ひとりだけとは思いもせず、遠慮しつつも同席した彼女の前に差し出された「日本一のたこ焼」は球形崩壊。「どの口で日本一言うとったんじゃい!」と笑わせるが、喜美子は一瞬目が点になったもののツッコミもせず、まともなたこ焼を自ら作ってやる。
実はこれだけのドラマが1回15分のうちに起こるって『スカーレット』のうちでは少ないのだ。しかもラストで喜美子は、武志の部屋にある「家庭の医学」を覗き見て、彼自身が自分の病名をすでに白血病と断定していることを知るのである。まだ誰にも知らされていないのに。

こうした喜怒哀楽がごちゃまぜになったエピソードが、このドラマにはもっと欲しいんだけどなあ。
この週の最後では、感染症の疑いで容態急変した武志の病床で、マスクしながら「逢いたかった」「手、つないでもいい?」とストレートな言葉で筆談する真奈・・・、なんてシーンもある。彼女、どうしようもない超天然キャラだとようやく判るのだが、うーん、可愛いじゃないか!!
真奈を演じるのは松田るか。もともとは仮面ライダー出身女優らしいのだけれど、僕が最初に知ったのはドラマ『賭ケグルイ』の強烈すぎる令嬢キャラ・皇伊月(すめらぎいつき)である。
ギャンブルで負けた相手の生爪をコレクションしてるというサイコな役(ってこのドラマ、サイコしか出てこない)だから、初登場時に女優名は確認しておきながらもピンとこなかったのだ。
ようやく出番が多く、顔もしっかり映るようになって「おおお、あのコなのね!」とのけぞった次第。新進俳優の登竜門でもある朝ドラで、『スカーレット』はここまで目覚ましい人材を見つけられなかった(前にも書いたが、松下洸平の演技スタイルは僕は苦手である)のだが、ようやく現れたか、という感じだ。
これまでちゃんと触れなかったが、武志役の伊藤健太郎も凄くいい。控えめな演技で押し通してはいるが、なんせ当代屈指の売れっ子。
父と母との関係に揺れ、自らの命の行く末に揺れ、陶芸家としての芸術的指標に揺れ、そして真奈への恋心に揺れ、という、普通ならアイデンティティ崩壊しかけるような苦悩まみれの青春像を、微塵も悲劇的ではなく演じていて、しかも華があり流石だ。

僕がこのドラマにほとんどノレていないのは、ここまでの連載を読んでくださった方には周知のことだろうけれど、この週にはそれが如実に現れることもあった。
喜美子の尊敬する芸術家、ジョージ富士川のアート本「TODAY is」を八郎が買ってくる。それは左ページにアートに重ねて「今日が私の1日なら、私は・・・だろう。」と問いかけがあり、右ページはまったくの空白。そこに武志は右ページに「私はいつもと変わらない1日を過ごすだろう」と書く。
めくって「今日が君の1日なら、私は・・・だろう。」とあっても「私はいつもと変わらない1日を過ごすだろう」と書く。そのあと述語は「友達」「父」「母」と続くが、武志は同じく「私はいつもと変わらない1日を過ごすだろう」と書く。
ああ、きれいごとだなあ、と僕は思う。そんなきれいごとが真奈をさらに燃えさせることになるのだ。
それにしても八郎、ずっと信楽に居る感じだな。仕事はどうした?
文/ミルクマン斉藤
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