評論家鼎談、外国語映画19年下半期ベストと20年注目作は?

2020.3.7 21:00

『ジョーカー』(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics

(写真5枚)

「圧倒的過ぎてね、ベストに入れられない」(斉藤)

田辺「そのデ・ニーロ繋がりで、『アイリッシュマン』。役者が自分の役をきちんと理解して動いていて、芝居で魅せる映画として堪能しました」

斉藤「あの3人(ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ)の『漫才』を観る映画なんだよな(笑)。メイキングを観たら、最初のシーンで、1975年にアメリカの大統領ジョン.F.ケネディが死んで、そのニュースをテレビで観てたホッファ(アル・パチーノ)が立ち上がり、家族の部屋から出て行くシーンがある。最初のテイクを撮ったあと、もう80歳近いパチーノはマーティン・スコセッシ監督にこっそり、『これ、49才の役だから立ち上がるのがちょっと遅いんだよね』と言われたという(笑)」」

春岡「アル・パチーノが立ち上がるのが遅かったと(笑)」

斉藤「それ以降『今は49才』『ここは35才』『これは61才』みたいに年齢をカンペで出すようにしたと」

春岡「年齢を出されて、それに合わせて芝居が出来るところがすごいよ。時間にして1秒か2秒、フイルムにして24コマ進むか進まないかというところでのさりげないけれど大切なリアルの追究」

田辺「でも、それぞ芝居なんですね。そんな3人に女優陣も食らいついてやっていて本当に素晴らしかった」

斉藤「ほとんど女優はギャグやけどな、ずっとしゃべって、たばこ吸っているっていう」

田辺「『たばこが吸いたいから早く車から降ろせ』ってずっと文句を言っている(笑)」

斉藤「完成度、成熟度からいうと圧倒的に過ぎてね。2019年のベストテンに入れられないんですよね」

春岡「だって、スコセッシが監督でデニーロが出てて、アル・パチーノとジョー・ペシが周りにいますとなったら、もうどんな題材でも“良いです”になっちゃうよ」

斉藤「あと、CGIも素晴らしい。あれ、わからないんだよ。わからないというか、メイクに見えるよね。ロバート・ゼメキスが一所懸命にモーション・キャプチャーで映画を作ってたことがあって、あれはただ気味悪いだけだったけれど、隔世の感があるよね。あと『マリッジ・ストーリー』は観た? アダム・ドライバーがうまいんだよ」

春岡「『ドン・キホーテ』を試写で観たあとで『マリッジ・ストーリー』を観たんだよ。そういえば『スター・ウォーズ/スカイ・ウォーカーの夜明け』のカイロ・レン役もやってるし、『どんな役でもできるな、お前!』ってなった」

斉藤「ある意味、インディペンデントの帝王だからね」

田辺「かつ、メジャーでもですからね。話は変わりますが、『ブラインドスポッティング』も外せませんね。人物間のやりとりがグルーヴィー」

『ブラインドスポッティング』(C)2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED
『ブラインドスポッティング』(C)2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

斉藤「そうそう。ラップチーム組んでいるから、ふたりの会話が普通にラップになっている。白人と黒人の友人同士の話で。黒人の方が真面目で白人の方がアカンのよ。でも一緒にいたら『黒人の方が悪い』と思われてしまう。一緒に相手をボコボコにしても白人はシャバにいて、黒人だけ捕まるみたいな。子どもの頃から家族のようにして付き合ってきたのに、お前と俺の見方は違うんやみたいな問題意識がすごいよ」

田辺「監督は、カルロス・ロペス・エストラーダというメキシコ系アメリカ人で若手なんですよね。スパイク・リーが出てきたときのような感覚かもしれない。僕は『ボーダー 二つの世界』も好きでしたよ」

斉藤「僕は、あれはアカンかった。『いける』と思ったんだけど、全然ダメだった。案外普通の映画だったんだよな」

田辺「まあ確かにすごく分かりやすく人種問題などを扱っていますけど、あの生物たちの交わりを観たときは、思わず映画館で『マジか』と声が漏れました」

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