評論家鼎談、邦画の2019年下半期ベスト3

2020.3.7 22:00

映画『宮本から君へ』のメインビジュアル

(写真5枚)

Lmaga.jpの恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々の映画メディアで活躍し、本サイトの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。見逃したのならば、観ておくべき2019年・下半期公開の日本映画ベスト3を厳選しました。

文・編集/田辺ユウキ

「ぼくはあれが『世界』だと思う」(斉藤)

田辺「日本映画は、二ノ宮隆太郎監督の『お嬢ちゃん』を機にこれからさらに注目度があがりそうですけど、作品もかなりおもしろかったですね」

春岡「俺はダメだった。あの長撮りはどうなんだって」

斉藤「いやいや、僕はあの長回しこそが楽しくって楽しくって。僕は新しい映画だと思った。今まで文学の世界ではおこなわれてきたけれども、おそらく、日本映画に関しては誰もここまではやらなかったことが起こっている、と。最初と最後の構図は酷似してるけど、そもそも最初はそのあと物語になにも関わらない赤の他人で(笑)。どういうふうに叙述とキャメラが進んでいくか判らないという映画的運動があるんだよね」

春岡「そうかぁ? 正直、俺はあれがダメだったんだよ。あの運動は判るけど、特にファーストシーンの海辺でまったく関係ない家族が話していたり、いろんな連中が通ってきたり。で、そこを通ってきた主人公たちに移って、また戻るっていう。あれが俺には、ちょっと素人だましのように見えてしまったからさ。まあ、相米(慎二)さんの長撮りのときも同じような議論がされたけど」

斉藤「一時期の相米さんは運動自体が映画だもんね」

春岡「そうなんだよ。それがあるからなぁ」

斉藤「でも、二宮隆太郎もそうだと思うよ」

田辺「『魅力の人間』(2012年)『枝葉のこと』(2017年)などでも分かるけど、二ノ宮隆太郎監督のスタイルなんですよね」

『お嬢ちゃん』(C)ENBUゼミナール
『お嬢ちゃん』(C)ENBUゼミナール

春岡「ある種のスペクタルがあることは認める。あの役者たちの出入りがあって、主人公や脇役も関係なしにする。たしかにそれらの動きはスペクタクルではある。それは認めるけどさ、男3人が、あの子がかわいかっただとかやっているのを観ていて、どうしても学生映画っぽさから抜け切れていない気がしたんだよ」

斉藤「いや、僕はあれが『世界』だと思う。『お嬢ちゃん』とは名づけられてるけれど、彼女だけが主人公なのではなくて、お嬢ちゃんという惑星を周回する有象無象にもまた物語があり、それこそが『世界』であり『宇宙』なんだと」

田辺「長回しの話でつなげると、小林啓一監督の『殺さない彼と死なない彼女』はいつも以上に撮影がうまい上に、編集も絶妙でした。まあ、長回しにおけるスペクタクルや運動性は、『ももいろそらを』(2012年)『ぼんとリンちゃん』(2014年)の方が良いと思いますが」

斉藤「でもリストカットとか含めて、今の映画として取り上げるにはどうしようもない古さを感じるんだよね。小林さんの映画は確かに画面は美しいけど、外光の映しこみとかちょっと綺麗すぎないかと」

田辺「たしかに人間が歩くところのポジショニングとか、かっちりしすぎてはいますけど、理性的で美しかった。少女たちが階段から落ちたあとに廊下を駆け出すシーンとか感動しましたよ」

斉藤「完全に計算されていて無手勝流な部分が少ないので、『あ、なるほど。頼まれ仕事だったのかな』と言う感じはしたな。小林監督の映画としてはいちばん商業的な成功は収めたみたいだし」

春岡「結局そうなんだよ。僕たちが大好きな『ぼんとリンちゃん』、あれじゃあ興行収入的にはダメなんだよな。それが今度の『殺さない彼と死なない彼女』だと、興行収入はいっちゃうわけだよね」

斉藤「キャストも含めてね。でも僕がさっき言ったような古臭さを感じるところも、この物語の主人公たちと同世代の観客にとっては切実なのかもしれない」

田辺「でも、その商業というのは良くも悪くもで、お葬式の場面のからくりとか、場面のつながりとか、そういうネタバラシをやっていくじゃないですか。そこはやらない方が良かった。あと、ふたりの物語に結論がついたはずなのにそのまま続けるじゃないですか。ケツがちょっと長すぎるんですよね。ただ、そこまで下世話なことをしないと理解出来ない人がいるのかもしれない」

春岡「主人公のふたりもいいけど、男の子にずっと好きだと言い続ける女の子と、『僕のことを好きだ』って言う自分が好きなんでしょというあの男の子。あっちの話の方が好きなんだよなぁ。メジャーな映画ではあるけど、小林啓一らしさがあって、そこは買いたいよ」

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