京大学生寮パンフのハラスメント注意書きが秀逸…執筆者に聞いた

2020.4.2 14:35

ちろきしんさんが投稿したツイート

(写真6枚)

 『ハラスメント加害者にならないために』を執筆した井上彼方さんにも聞きました。お話は「寮の見解ではなく、個人の見解です。また、共同の執筆者である小林という寮生に意見を聞きながら、私の言葉でまとめました」と詳しく語ってくれました。

熊野寮のイベントの様子(提供:京都大学 熊野寮自治会)

 ──『ハラスメント加害者にならないために』が誕生したのはいつ頃ですか?

 2019年の春に入ってくる寮生に配布する冊子に掲載するために執筆した文章です。それを今回のパンフレットに転載しています。当時私は、寮内のハラスメント対策や防犯・防災を担当する部局にいて、そのメンバーとして作成しました。

 ──なぜ『ハラスメント加害者にならないために』をつくることになったのですか?

 2015年に合同イベントにおいて熊野寮生によるハラスメント事件が発生しました。当たり前のことですが、取り返しのつかないことが起きてからでは、取り返しがつかないということを学びました。全寮規模の予防的なアプローチが必要だと痛感しました。それはハラスメントを防ぐというそのままの目的のためでもあり、同時に、もしハラスメントが起きてしまった場合に、被害者や目撃者が声を上げやすくするためでもあります。

 その後、有志による寮内の学習会など、できることからちょっとずつ活動をしてきました。2015年から、私が退寮した2019年にかけて、ハラスメントについての活動を有志のものから寮全体のものへと少しずつ変化させてきたと思います。その活動の一環で、入寮者に配布する文章にハラスメントの注意喚起を入れるということをしました。

 正直に言うと、2015年のハラスメント事件の際、ハラスメントを擁護する声も寮内には存在し、ハラスメントについて寮内で扱うことの難しさを感じました。まずは共感してくれる人だけでの学習会を開催したり、より受け入れてもらいやすい内容の提起から始めて、少しずつ内容をアップデートさせたりしてきました。

 ──つくるうえで特に難しかった内容は?

 全寮規模に広めていく過程で、そして『ハラスメント加害者にならないために』を執筆する過程で気をつけたことは、わかる人にだけわかる文章にはしないということです。もちろん、ハラスメントについての詳細な言語化も必要です。これは学習会等で行いました。今回、大切にしたことは「一瞬しか読まれないもの」にどれだけエッセンスを溶かし込むか、ということです。

 具体的な禁止事項の羅列でいいのか、という懸念もありました。安易な禁止事項の羅列は、「これさえ守っておけばいいんでしょ」という思考停止や開き直りを生むのではないかという懸念です。でも、網羅しようとしすぎて抽象度をあげると、ふわっとした一般論になってしまって、意味をなさないのではないかという懸念もありました。

 なので、具体的な案件を想定することによってイメージしやすく、伝わりやすくすることと、具体的なことから自分なりに考えを深めるきっかけにしてもらえるような広がりを持たせるということの両方のバランスを取るようにしました。

 『ハラスメント加害者にならないために』は、被害にあった人が読んだときに勇気づけられる文章にする、ということも気をつけて書きました。というのは、被害にあった時に、「あれはハラスメントであり、やってきた相手に対して怒っていいのだ。自分を責めなくていいのだ」ということを言語化してくれる言葉が助けになることがあると思うからです。

 悪意を持ってハラスメント行う人は、この文章を読んでも行動を改めてくれないかもしれません。この文章はその意味では被害を減らす役に立たない場合もあると思います。でも、こういった文章があちこちの媒体に載ることで、被害者や心ある人が声をあげやすい雰囲気作りに寄与することができれば、巡り巡って社会全体のハラスメントを減らしていくことはできると思っています。この文章がその一助になったらうれしいと思っています。

 ──すばらしいと話題になりました。

 自分の書いた文章にこうして共感してくださる方がたくさんいるというのは素直にうれしいです。でも本当は、エンパワーメントされたと言ってくれる人が一人でもいることが何よりもうれしいです。

 でも同時に、この文章は完璧な文章ではありません。ハラスメントを網羅しているわけでもないし、表現の上でも内容面でも文字数などの制約で妥協している点もあります。私の認識にも不十分な点があるかもしれません。この文章が「もはや古い」とされる社会になってほしいと思っています。

取材/太田浩子

「京都大学 熊野寮」

住所:京都市左京区東竹屋町50

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