評論家が観たエール「名曲・長崎の鐘を持ち出した意味とは」

2020.4.14 20:00

東京オリンピック開会式に臨む古山裕一(窪田正孝)と妻の音(二階堂ふみ) (C)NHK

(写真5枚)

「第1回で名曲『長崎の鐘』を持ち出した意味とは」

いきなり吹奏楽による『東京オリンピック・マーチ』の総譜にとりかかる窪田正孝。オーケストラのフル・スコアをアップで見ることなど、クラシックやビッグ・バンド系の音楽に親しいヒト以外にはあまりないのではないか。そこから場面は1964年オリンピック開会式の舞台裏で、緊張のあまりトイレで吐く窪田へと繋がる。そんな気弱な彼を無理矢理引っ張り出す妻の二階堂ふみ。そこに警備員の萩原聖人が現れて言う。「生きる希望を作ってくれたのは『長崎の鐘』です」と・・・。

自室で思案する古山裕一(窪田正孝)
自室で思案する古山裕一(窪田正孝)

この後、半年間続くドラマが窪田と二階堂のいわば「女性上位夫婦」の物語、つまりW主演といっていいものであろうことが予想される。しかも第二次大戦後のメルクマール(注:道標・指標)とも云うべき『東京オリンピック・マーチ』と『長崎の鐘』という2曲をそのまま名指しで示すことで、窪田演じる「古山裕一」はほとんどそのまま実在の大作曲家「古関裕而(こせきゆうじ)」であると断言してしまったも同然。これは『わろてんか』の吉本せいや、『スカーレット』の神山清子などの「あくまでモデル」な例とはちょっと次元が違う。

さらに古関の業績を知る者は思うだろう(ちなみに僕はクラシックマニアであり、内外のポップスの歴史にも相当詳しいつもりでいる)。歌謡曲のパターンを崩し、「歌曲」といってもいい構成と風格を備える名曲『長崎の鐘』をわざわざ持ち出した意味を。

この原爆被災地を歌った感動的な1曲は、戦時中に自ら作曲した『愛国の花』『露営の歌』などの軍歌によって若者を戦地に駆り立てた悔悟の念から生まれたものであることを古関自身が明言している。だから、いずれはそうした作曲家の葛藤も描かれるのだろうと自動的に想像できるのだ。

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