評論家が観たエール「名曲・長崎の鐘を持ち出した意味とは」

2020.4.14 20:00

東京オリンピック開会式に臨む古山裕一(窪田正孝)と妻の音(二階堂ふみ) (C)NHK

(写真5枚)

「子役が異常に豊作、脇役の大人も濃い」

まあ朝ドラのクリシェとして、すぐあとに続くのは主人公の幼少期のお話だ。明治42年の福島で、それなりに繁昌する呉服屋に生まれた「古山裕一」。父母に甘やかされたせいもあり、「ちょっぴり心許ない子ども」として育った裕一は「ずぐだれ」=「意気地なし」だと、頭脳を通さず闇雲にマッチョないじめっ子たちに苛められるようになる。

蓄音機を見つめる古山裕一(石田星空)
蓄音機を見つめる古山裕一(石田星空) (C)NHK

それもまぁよくあるパターンなのだけれど、見事なのはそれぞれの子役の個性が、週終わりに至ると明確に感じられるようになることだ。父が買ってきたレコードと小山田耕三(=明らかに山田耕筰)の作曲法の書で、西洋音楽の才に目覚める裕一を演じる石田星空。

「乃木大将」と綽名される武闘派ガキ大将に見えて、実は万葉集・古今和歌集に親しむ魚屋の息子・村野鉄男(=たぶん作詞家の野村俊夫)を演じる込江大牙。県会議員の息子で本の虫で、見るからに頭でっかちな佐藤久志(=たぶん歌手の伊藤久男)を演じる山口太幹。

さらに、のちに二階堂ふみが演じる関内音(明らかに古関裕而夫人の金子。古山と関内がくっついて「古関」か。なるほど)を演じる、それこそ二階堂ふみそっくりな清水香帆。朝ドラの幼少期を演じた子役はその後伸びることが多いけれど、今作は異常に豊作でびっくりする。

ちなみに脇役の大人たちも濃いメンバー。超有名どころはともかくとして、呉服屋番頭役の菅原大吉、鉄拳指導しか術のない愚かな教師を芹澤興人、普段は柔和な魚屋だがいきなり鬼の表情を見せる鉄男の父に山本浩司。

祖父・権藤源蔵(森山周一郎)や伯父・茂兵衞(風間杜夫)、祖母・八重(三田和代)たちに迎えられる裕一(石田星空)(C)NHK
祖父・権藤源蔵(森山周一郎)や伯父・茂兵衞(風間杜夫)、祖母・八重(三田和代)たちに迎えられる裕一(石田星空)(C)NHK

いずれも日本映画界を背負う名バイプレイヤーである。さらには裕一の祖父として大声優の森山周一郎を起用したのも驚きだ(言っちゃあ悪いがぜんぜんセリフが聞き取れない・・・)。前作『スカーレット』の驚愕すべき華のなさに比べると「これぞ朝ドラ」って感じのキャスティングで、しかもヒネりもあるし揃って演技巧者。僕は遥かに好みである。

それらを統べる吉田照幸(『あまちゃん』はじめ『弟の夫』『富士ファミリー』、NHK版『金田一シリーズ』などの快作多数)の演出も、エンタテインメントに手慣れた安定感があるし、時代もの朝ドラの凝ったプロダクション・デザインも満足できる(SPレコードの音にまったくノイズがないのは戴けないが)。

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