ウィズコロナをほがらかに過ごす、ライフハック本3選

2020.5.23 20:15

コロナ禍をほがらかに過ごすためのライフハック本

(写真4枚)

コロナ禍による自粛生活もかれこれ2カ月が経つ今。21日に京都・大阪・兵庫の緊急事態宣言が解除されるも、生活に誰もが多かれ少なかれ、ストレスを抱えているはず。どうせならば不安や怒りに飲み込まれず、楽しくほがらかに過ごしたい。書評連載を長年手がけるライター井口啓子さんが、そんな気持ちに寄り添う、ライフハック本3冊を紹介します。

◼️どんなときでも夢中になれるものがあるって尊い!
『裸一貫!つづ井さん』(つづ井)

『裸一貫! つづ井さん』(著:つづ井/文藝春秋)

家でマンガを読んだり、アニメを見たり、インドアな趣味に没頭することを至上の幸せとする「オタク」と呼ばれる人々のライフスタイルは、現在のステイホーム下を生き抜くうえでは、大いに参考にしたいもの。なかでも、非オタクの人にこそ読んで欲しいのが『裸一貫!つづ井さん』。アラサー×おひとりさま×オタクのつづ井さんが、愉快な友人たちとの日常を絵日記風に描いたものだ。

推し(最も応援している人やキャラクター)や、推しを取り巻く登場人物の身長を、マスキングテープで壁に可視化して「めっちゃ楽しい」と夜通し盛り上がったり。推しの話を共有できる人が欲しくて、自分の中にいろんな架空の人格を作り、さらにはSNSアカウントを作成して、その人になりきってツイート。

「私が送らなかったタイプの人生も追体験できるし、女子大生目線の推しの話も聞けるし一石二鳥!」と悦に入ったり。常人には考えも及ばないクリエイティブすぎるひとり遊びの数々に、理屈ヌキで爆笑。ここまで一人で楽しめたら、マジで「生物として最強」でしょう。

また、オタクネタ以外では、「何かを育てたい欲」を満たすべく「尻を育てる(週三でスクラブし、毎晩クリームを塗りながら尻に語り掛ける)」エピソードも最&高。ステイホーム中、受動的な娯楽に飽き、庇護欲や達成感を求める人の間で、家庭菜園やパン作りがブームとなっているというが、そのテの方面は苦手という人は、自分の尻に目を向けてはいかがだろう。

コロナ禍に限らず、自分の力だけではどうしようもないことは、普通に生きてるだけで日々多々ある。だからこそ、自分の手の届く範囲で自分をめいっぱい楽しませる、つづ井さんのがんばりすぎないD.I.Y.ライフに、誰もが元気をもらえるはずだ。

◼️不要不急のモノだけが人生を豊かにしてくれる
『深夜高速バスに100回くらい乗ってわかったこと』(スズキナオ)

『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(著:スズキナオ/スタンド・ブックス)

つづ井さん同様、世の中の「かくあるべき」といった価値観にとらわれず、自分の好きを大切に自由に生きる。新しい時代のライフハック指南といえるのが、ライターのスズキナオさんによる同書だ。

並んでも食べられない究極のラーメンを求めて、友人のおかんが作る「家系ラーメン」を食べに行ったり、スーパーの半額値引き肉だけでの半額焼肉パーティーを企画したり。世の中の大半の人がスルーする重箱の隅を突き、調査した記録の数々は、「勝手に探偵ナイトスクープ」と呼びたい、くだらなおもしろさ。たいしてお金を掛けなくても、遠出ができなくても、発想ひとつでこんなに楽しめる。真の「豊かさ」とは、こういうことだよなーと目からウロコが落ちる。

スズキナオさんとパリッコさんによる飲酒ユニット「酒の穴」の大発明、アウトドア用の折りたたみ椅子を持ち出して、好きな場所に置き、どこでも酒場にする遊び「チェアリング」などは、3密を避けたい今こそ真似したいアイデア。

とはいえ、タイトルが示すように、本書の大半は長距離バスやローカル線で興味の赴くまま日本各地を旅した記録。瀬戸内の海小屋を使った伝統的漁法「四つ手網」を使って、夜通し魚をとっては焼いてダラダラと飲んで過ごしたり、たこせんべいを食べ比べるためだけに明石~淡路島をバスで気ままに旅したり、ロマンを掻き立てられる記録も多く、また旅に出れるようになったら絶対ココに行きたい!と夢想するのも、また楽しい。

不要不急の外出による、偶然の人やモノとの出会いがいかに掛け替えのないものか。しみじみ感じ入る一冊だ。

◼️「悩み」の正体を知ることが、ほがらかな人生の第一歩
『鴻上尚史のほがらか人生相談』(鴻上尚史)

『鴻上尚史のほがらか人生相談』(著:鴻上尚史/朝日新聞出版)

それでも毎日が楽しめなくなったら、『AERA dot.』で好評連載中の『鴻上尚史のほがらか人生相談』をお勧めしたい。

たとえば「個性的な服を着た帰国子女の娘がいじめられそうです。普通の洋服を買うべきですか?」という母親からの悩みには、「みんなが同じになろうという同調圧力は日本の宿痾(編集部注:読みは「しゅくあ」、持病という意)です」と戦時中の特攻隊を例に語り、「娘さんが直面し、悩んでいるのは日本そのもの」と真の敵を指摘。その強さと理不尽さゆえ「正面から切り込んだら間違いなく負ける」と、自尊意識を守ったうえでの戦い方を提示してみせる。

そもそも「悩んでいる」状態と「考えている」状態とはまったく別もので、「悩んでいる」間は当の本人も自分を悩ませる真の原因には気付かず、ただいたずらに思考をグルグルとさせているにすぎないものだ。そんなモヤモヤを理論的に言語化し、具体的で実行可能な道筋を与えてくれる本書は、正体不明の閉塞感にとらわれがちな今こそ、心にスッと浸透してくる。

恋愛、仕事、容姿、人間関係・・・どんな悩みもこれでスカッと解決! なんてことはないからこそ、試行錯誤しながら、ときには妥協しつつ、まずはできることをやっていくしかないのだと、心がふっと軽くなるはずだ。

文/井口啓子

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