朝ドラ・エールで痺れた、説得力あるケレンの効いた演出とは

2020.5.28 20:15

第30回より、ずぶ濡れでハーモニカを弾く裕一(窪田正孝)(C)NHK

(写真19枚)

「天賦の才を得た者は現世など二の次三の次」

関内音との婚約についても母から反対され、恩師の藤堂からも「本気で何かを成し遂げたいなら、何かを捨てねばならない」と音楽留学を前提として、結婚と養子縁組を牽制される。

でもコレも仕方ないんだよねえ。浩二の言うことはもっともだけど、正直にありのままにいうと、裕一にはおそらく家がどうなろうがまったく関心がないのだ。

そのあたりの現世遊離者なりの苦悶を窪田正孝は絶妙にフォローしているのであるが、芸術とはデモーニッシュ(編集注:鬼神に憑かれたような超自然的な力)なもので、その魅惑に憑りつかれた、あるいはその天賦の才を得た者には現世のことなど二の次三の次になるのである。

音とのことにしても恋愛とはデモーニッシュなもので、しかも自分の芸術のミューズを彼女のなかに見つけたからには、現世のことなど二の次三の次で、もはや手放すことなどできやしない。

しかし基本的に「ずぐだれ」=「意気地なし」なところのある裕一は、そんなにドライに家族の行く末を見限ることができない。将来を諦め、音に離別の手紙を書いてしまうのだが・・・。

ある手紙を読み愕然とする裕一(窪田正孝)(C)NHK
第27回より、ある手紙を読み愕然とする裕一(窪田正孝)(C)NHK

そこにコンクール主宰・エスター社からの通知が届く。世界不況により英国留学は取り消しになった、と。裕一の土台は根本的に崩れてしまう。

史実ではこの留学は有効であった。古関裕而は自らの意思でなぜか行かなかったのである。その理由としては、ドラマでも描かれているような実家の危機により早急にカネを稼がねばならなかったこと、金子=音との熱烈な恋愛・結婚が挙げられるようだが、そこんとこグイッとまとめて、時勢的にも不自然ではない留学取り消しに持って行ったのは巧いと思う。

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