朝ドラで描いた紺碧の空、現状打破できず悩む若者へのエール

2020.6.27 19:15

第40回より、早慶戦を応援する裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)(C)NHK

(写真21枚)

「現状打破できず悩む若者へのエールの物語」

小山田(≒山田耕筰)も、ドラマでの「やさしさを見せない、畏怖すべき存在」といったものとは違っていて、裕而との関係性も終始良好だったとみえる。おそらく「自らの意思で入社させた裕一への獅子の子落とし的指導であった」という展開になりそうな気がするが・・・。懸念は志村けんさんが存命中、どこまで撮り終えていたかだ・・・とまあ、これは勝手な予想。

それはともかく小山田の、無視にも等しい反応に裕一は絶望する。よけいに書けなくなる。そんな裕一の作品を、団員からの忠言も聞かずにひたすら待つ田中。いつになく開き直ったようにぶっ切れた、体育会系の暑苦しい演技が笑わせる三浦貴大だが、次第に内省的になっていく。そこまで自分が新応援歌に拘るのは何故なのか。「何か判らんけど、応援てわしらの自己満足やなかろうか」とまで自問自答する始末。

田中は田中で「応援する自分」を見つめ直し、その原点である体験に「気づく」のだ。それは九州の片田舎でバッテリーを組んでいた親友に怪我を負わせてしまい、野球の道を断ってしまった話。その親友は病院で、ラジオの野球中継を聴いて自らを鼓舞していたという。そんな友のためにも「選手が頑張れるように応援することしかない」と涙ながらに裕一に話すのだ。

笑い合う応援団長の田中(三浦貴大)と裕一(窪田正孝)(C)NHK
第40回より、笑い合う応援団長の田中(三浦貴大)と裕一(窪田正孝)(C)NHK

田中の話が、裕一の「凝り固まった頭を吹っ飛ばす(音の言葉)」。音楽が降りてきて徹夜で曲を書き上げる裕一。和洋折衷の仕事部屋に碧い朝日が差してきたころ、裕一は寝込む田中を起こして楽譜を見せる。・・・しかしタイトルが『紺碧の空』ではなく『紺壁の空』。ホンマ吉田照幸はオチつけんと気が済まんのやなあ(褒め言葉)。

実際にもこの曲は、披露発表会の3日前にやっと完成したのだという。その理由は定かでないが、「僕は自分の力を示すことに固執してた。そんなひとりよがりの音楽、伝わるわけない。今できることを頑張ってやってみるから!」と一歩前へ踏み出す裕一の姿が、現状打破できず悩む多くの若者たちへのひとつのエールの物語として成立していたのは間違いない。もちろん窪田正孝の繊細にして、ときにデモーニッシュ(編集注:鬼神に憑かれたよう)な演技に拠るところは大きいが。

あ、ライバル慶応の応援団長・御園生新之助として登場する橋本淳は、朝ドラでは『ちりとてちん』に出ていたけれど、近年は舞台を中心に大活躍。映画では昨年公開された傑作『月極オトコトモダチ』でちょっとない存在感を見せつけた俳優である。

今も早稲田の第一応援歌である『紺碧の空』は、古関裕而を真の歌謡曲作家に成らしめた「軍歌」のジャンルへの適応性を示すことにもなるのだが・・・。果たして戦時期の彼はどれくらい描かれるのであろうか。コロナ禍のせいでスケジュールが狂ったこともありいささか心配である。

【今週出てきた曲】
●古賀政男『丘を越えて』(木枯が山藤とスタジオでレコーディングしている曲)
●ベッリーニ/『3つのアリエッタ』より『優雅な月よ』(女子学生にキャーキャー言われる中、佐藤久志がピアノ弾き語りする曲。この選曲は渋い)
●古関裕而『大地の反逆』(裕一が『反逆の詩』のスコアを小山田に見せるシーンで)
●プッチーニ/歌劇『ジャンニ・スキッキ』より『私のお父さん』(日曜の音楽学校で双浦環が歌っていた曲)
●古関裕而『紺碧の空』

文/ミルクマン斉藤

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