『のぼる小寺さん』、古厩監督「女の子は道を見つけ、男の子は恋愛に」
元モーニング娘。の工藤遥が初主演を務める、7月3日公開の映画『のぼる小寺さん』。作者・珈琲による同名の漫画原作で、ひたむきにボルダリングに挑み続ける小寺さんと、それを周囲から見つめて影響を受ける同級生たちを、伊藤健太郎、鈴木仁、吉川愛、小野花梨ら注目の俳優が演じる。
青春時代ならではのきらめきと人間模様を『ロボコン』『奈緒子』などの作品で描いてきた古厩(ふるまや)智之監督ならではの作品に。女優・工藤遥としての魅力を引き出した監督本人から、作品に込めた思いや出演者について訊いた。
取材・文/ミルクマン斉藤
「工藤さんは『それはどうでもいいかな』って吹っ切れるタイプ」
──久しぶりに古厩監督らしい青春映画ですね。クラブものというか、スポーツものというか、『奈緒子』や『武士道シックスティーン』あるいは『ロボコン』などに繋がるような。なぜ、この原作に?
面白い漫画があるから、と言われて読んだらとてもよくって。小寺たちがただゲームするだけの話とか、友だちの家に行くだけの話とかがあって、日常というか、日々が描かれていて、すごくやりたいと思いましたね。
──でも映画は日常のスケッチというより、クライマーという目的に向かって邁進する小寺さんの周囲に、未来の見えない人々が自然と集ってくるお話に集約され、コンパクトだけれど方向性のはっきりした物語に。小寺さんという太陽を周回する惑星のような。その中心となる工藤遥さんの佇まいが素晴らしいですね。
「この人しかいない」と田中(亮祐)プロデューサーがある日、高らかに宣言いたしまして、そこから工藤さんに決まりましたね。
──監督は女優をワンランクアップさせるのがとても上手いと思っているのですけれど。
アップするとみんな僕のところから去って行っちゃうんですけれど(笑)。
──自負はおありになるんでしょ?
う~ん。でもたまたま面白い子に当たってるなと言うのはありますよ。『ロボコン』の長澤まさみさんも『奈緒子』の上野樹里さんもめちゃめちゃ面白かったし。
──ですよね。ちなみに今回の工藤さん演じる小寺さんというキャラクターはかなりの天然さんじゃないですか。みんなからひたすら『見られる』存在なのに、彼女自身はまったく意識していない。
それって本当はすごく難しくて。あれを演技でわざとやってるように見えたら台無しになってしまうので、どうしようかなぁと。でも、工藤さん、元々モーニング娘。で、歌ったり踊ったりということを一心に出来る子だったんですね。
ぐーっと集中してやってるときはこっちのことは気にならないっていうところがあって、「あ、これで小寺さんをやればいいのかな」ってあるとき思ったんですね。
──もともと工藤さんには小寺さん的な天然ぽさがあったんですか?
う~ん、そうですね。僕は小寺さんみたいにボーッと話す子かと思っていたんですけど、この間久々に会ったらシャキシャキしゃべってて。本当はこうなんですよ~って。やはり、元ハロー!プロジェクトのモーニング娘。らしさがあるんですね。
若いから自意識過剰な面や、周りのことを気にするところもあるだろうと思うのですが、工藤さんは途中で「それはどうでもいいかな」って吹っ切れるタイプのような気がしますね。「もういいや。やろ!」ってなるタイプで、そこがよかったような気がします。
──じゃあ、あのいかにもネイティヴなものに見える天然さは演技なんですね。
そうなんですよね。演技なんですよ、一応。
──そんななか、小寺さんを見つめ続ける近藤(伊藤健太郎)と長ーい時間見つめ合うシーンが、この映画には2回あり、あのときの表情がたまらないんですよね。あの長い時間を工藤さんの顔だけで保たせるという。
シーンとして保たないよ、と言われて編集さんとそこで喧嘩しました、僕。小寺さんは人間ではなくて渦の中心みたいなもので、それが周りの人をぐるぐる巻き込んでいくんですけど、ラストは渦の中心も人間にしたいなと。だからこそ、このところはみっちり撮りたかったんです。だから保つだろうと思ったんですけど、誰も信じてくれなかった(笑)。
──でも、みんな信じますよ、あれを見たら。近藤の背にもたせかけるのも小寺さんの意思ですもんね。
ああいうことを体験出来なくなって何十年も経ちますけどね。ああいうことやりたいなぁ、また(笑)。
──間接キスありでね(笑)。近藤の恋心なんてのは『この窓は君のもの』(1995年の古厩監督長編デビュー作)などを思わせるところがあるじゃないですか。
そうすね、ありますね。今までいろんな作品も撮りましたが、好きなものを隠すのはやめようと思って。
──ここ2、3本はちょっと違う傾向の映画を撮ってられましたもんね。やっぱりこういうのが似合うなぁと思うんですけど。
そうすね、めちゃめちゃ合ってると思います(笑)。
『のぼる小寺さん』
2020年7月3日(金)公開
監督:古厩智之
脚本:吉田玲子
原作:珈琲『のぼる小寺さん』(講談社アフタヌーンKC刊)
出演:工藤遥、伊藤健太郎、鈴木仁、吉川愛、小野花梨、ほか
配給:ビターズ・エンド
関西の上映映画館:梅田ブルク7/なんばパークスシネマ/T・ジョイ京都/シネ・リーブル神戸、ほか
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