未曾有の事態、関西の劇場の挑戦〜HEP HALLの場合

2020.7.23 06:45

小劇場「HEP HALL」は、梅田のファッションビル「HEP FIVE」の8階に位置する

(写真7枚)

生配信での劇場再開「実験の要素が大きい」

今回上演する『一番の誕生日!』は、空晴のレパートリーの朗読劇。ソーシャル・ディスタンスに従って、俳優同士が距離を取って座ったままでも成立するうえ、出産を待つ男たちのドタバタコメディという、万人受けしやすい内容もポイントだ。しかしそれを狙ったのではなく、いろんな「渡りに船」の要素が重なったと、星川さんと岡部は口をそろえる。

空晴のリーディング芝居『一番の誕生日!』の出演者。左から駒野侃、小池裕之、南川泰規 写真/衛藤キヨコ
空晴のリーディング芝居『一番の誕生日!』の出演者。左から駒野侃、小池裕之、南川泰規 写真/衛藤キヨコ

もともと、6月に別の作品と2本立てで上演する予定だったこの作品。岡部は、「公演の延期を決めたところで、タイミングよくお話をいただきました。この作品は『生まれる』がテーマなので、観た後に希望を感じられるんじゃないかと思います」と自己分析する。

星川さんも、「良い題材でよかったです。気分が暗くなる話だと、僕らも乗れなかったかもしれない」と笑う。この朗読劇と、2人芝居『保健室で抜く男子高校生の話』(26日配信)という、ミニマムな演目を選出したのは「奇をてらわずに、そのまま配信しても成立できるから。映像面でもなにかひと工夫しようとか、まだそんな余裕はないです(笑)」と本音を語る。

「HEP HALLにとっては、これが初めての劇場主催の配信事業で、配信用に回線も引き直しました。ノウハウがまったくない状態で『これ、ちゃんとできるのか?』というのが、実は一番最低レベルにして、一番重要なこと。今回は正直、実験の要素が大きいです」と、思ったよりハードルが高いことを明かす。

配信へのとまどいは、実は岡部も同等だ。「10月にHEP HALLで新作を発表する予定ですが、今の状況が続くなら配信を入れなきゃならない。技術面はもちろん、配信ありだとどんな感じで演じればいいのかもわからないので、喜んで実験台になります(笑)。でもPCやスマホの画角に収まったとき、どんな見え方になるのか楽しみではありますね」と、不安と期待が半々の様子を見せた。

「なくなったら困る劇場」岡部尚子

「HEP HALL」で定期的に公演を打っている岡部
「HEP HALL」で定期的に公演を打っている岡部

同劇場の特徴は、まず抜群のアクセスの良さ。梅田の主要ターミナル駅から近く、しかも地下通路と直結しているので、大雨の日でも濡れずに来場できる。もうひとつの売りが、多彩な店が入るビル内という立地を意識した、ジャンルレスなラインアップだ。全国各地の若手劇団の公演は言うに及ばず、お笑いライブから生き物の展示イベントまで、本当になんでもアリ。

「実際は演劇をするのに一番適した空間なんで、展示イベントのときはレイアウトが大変ですけど(笑)。でも、多彩なジャンルのひとつとして『演劇』がある方が演劇にとっても健全だし、いろんな人が集まるHEP FIVEのお客さまに、むしろ抵抗なく来てもらいやすいんじゃないかと思います」と、星川さんは狙いを語った。

この劇場で定期的に公演を打っている岡部は、特に若い劇団にとって、150~200席の間で席数を調整できるHEP HALLのような空間が、プロへのステップアップに欠かせないと言う。

「(観客を)100人ぐらい呼ぶのは、身内総動員で何とかなりますけど、それ以上は外の人を集める実力がないとできない。劇団が成長する最初のステップとして、このぐらいの規模の劇場は不可欠です。しかもHEP HALLの場合、梅田のランドマーク的な赤い観覧車の、すぐ真下の場所でやれるというので、ちょっと気合が入りますね。なくなったら困る劇場です」と、その重要性を強調した。

HEP HALL ON LINE

空晴 リーディング芝居『一番の誕生日!』
日時:2020年7月25日(土)・16:00〜/20:00〜
作・演出:岡部尚子
出演:小池裕之、南川泰規、駒野侃/上瀧昇一郎(20時の回のみ)・古谷ちさ(16時の回のみ)

『保健室で抜く男子高校生の話』
日時:2020年7月26日(日)・16:00〜/20:00〜
作:山村菜月
演出:虎本剛(ステージタイガー)
出演:福田薫、中島大、辻谷敬亮、古見時夢

会場:HEP HALL(大阪市北区角田町5ー15 HEP FIVE 8F)
*無観客につき当日入場不可
料金:1500円
電話:06-6366-3636

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