神戸市とコロナ禍の軌跡、報道と患者プライバシーの間で葛藤

2020.7.24 07:15

253ページにも及ぶ詳細な報告書。神戸市の公式サイトで公開されている

(写真10枚)

現場に混乱、悩ましいSNS発信のタイミング

話は副市長会見に戻るが、報道に関する反省点として、市役所から現場への情報共有のあり方も挙げられた。2月27日、国は急遽、3月2日からの学校園の休業要請をおこなった。判断は各自治体に任されたので、久元市長は3月3日からの休校を判断し、教育委員会に要請する。

https://twitter.com/hisamotokizo/status/1233228524628017154

このとき、判断を下した久元市長はツイッターで休校を市民に知らせたが、市長からの要請を受けた教育委員会が会議を経て学校へ通知し、保護者へ連絡が届くまでには一定の時間がかかる。まだ教育委員会からの通知がない段階で、ツイッターで休校を知った保護者から学校に問い合わせが相次ぎ、学校現場が混乱してしまった。

会見に臨んだ記者からは、「その段階で市長がツイートしなければ、混乱せずに済んだのでは」との質問が。寺﨑前副市長は、「国からは市長が判断するように通知があり、市長には決定事項を市民に速やかに伝える責任があるので、ツイートをしたこと自体は間違っていない。しかし、その先に起こることの予測ができなかった」と述べた。

なお久元市長は2日後の定例会見(7月9日)で、「教育委員会に要請を出してすぐではなく、報道機関にオープンにした後にツイートした」と釈明。「ただ(自身のツイートを含め)ネットで報道された時点で学校が知らなかったのは事実。現場に影響を与えることについては、正式決定前に動きを知らせることも、ひとつのやり方だろう」と今後の改善を示唆した。

「早めの準備が功を奏した」医療崩壊を防いだ協働

一方で、職員の士気の高さや市民の応援が、第1波を乗り越えるカギになったという
職員の士気の高さや市民の応援が、第1波を乗り越えるカギになったという

一方、関東では軽症者が自宅待機となり、まれに容体が急変するケースもあったが、神戸市は自宅療養者を出さなかった。3月から民間事業者と交渉を始め、軽症者のための宿泊療養施設「ニチイ学館ポートアイランドセンター」、補完施設として「ホテルパールシティ神戸」(共に中央区)を確保。

ニチイ学館の運用開始は4月11日だったが、9日には基幹病院である「中央市民病院」(中央区)で院内感染が発生、入院中の軽症患者をさっそく移送させた。会見で「(運用開始が)遅れていたらどうなったか。早めの準備が功を奏した」と胸をなでおろした寺﨑前副市長。まさに民間との協働が、神戸の医療崩壊を防いだといえよう。

また、自らも感染リスクを負って奮闘する医療従事者に対して、市民の気持ちが形になったのは『こうべ医療者応援ファンド』だ。4月20日に慈善家から申し出があり、4日後の24日には基金の創設を発表。

感謝と応援の気持ちを神戸の医療従事者に直接届けられるとあって、2631件/5億2377万円余の寄付が集まった(7月14日現在)。うち3億円を5月中に、市内で感染者受け入れをおこなった16の医療機関に配分することを決定。資金は病院の医療体制の充実や、スタッフの手当てなどに充てられる。だが一方で「医療従事者への差別や偏見が依然、解消されていない」と寺﨑副市長は課題ももらしている。


今回の新型コロナウイルス対策に関しては、国から細かい指示のないまま実務が「丸投げ」される案件も少なくない。今回の報告書のように、各自治体が手探りのなか、どのような対応をし、それを今どう振りかえっているかを知ることは、次の波に備えるためにも重要なヒントになる。報告書は公開されており、これに対する意見(パブリックコメント)も、7月31日まで募集されている。

取材・文・写真/合楽仁美

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