聖武天皇は派手好みだった!? 正倉院宝物の再現模造で解明

2020.8.16 10:35

螺鈿(らでん)や玳瑁(たいまい/ウミガメの甲羅)の装飾が華やかな再現模造『螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんのごげんびわ)』裏面

(写真11枚)

──匠の共演ですか! 確かに制作過程が分かる展示が多いですが、中川さんがおもしろいと感じる再現模造は何でしょうか?

「再現模造『黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(おうごんるりでんはいのじゅうにりょうきょう)』ですね」

再現模造『黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(おうごんるりでんはいのじゅうにりょうきょう)』宮内庁正倉院事務所蔵(提供画像)

──お花の形のような七宝飾りの鏡ですよね? 

「この鏡は花びらを1枚ずつくっつけるようにして、造られているんです。花びらは、薄い銀の板にガラスの粉を焼き付ける方法で造られています(七宝焼き)。なんでこんなものを造ったのかさっぱり分からへん! というところがおもしろいです」

──古代の鏡は古墳からも出土していますが、似たようなものはないのですか?

「ほかに類例がないですね。普通、花びらの型を制作して、鋳造(ちゅうぞう)すればよいのに、あえて花びらをバラバラに造っています。そもそも、『国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』(※)に載っていないので、どういう来歴で正倉院に納められたのかが分からない鏡なんです」

──なぜ造られたのでしょう?

「個人的には、鏡を差し上げる方をビックリさせようと思ったのでは? と思います(笑)」

──昭和47年以降の宮内庁正倉院事務所が制作した「再現模造」の再現度がすごいと聞いているのですが?

「正倉院宝物と同じ物を模倣しただけではないことを展示するコーナーがあります。正倉院宝物の布製品を織物から再現したのです。あと、小学生の頃に習った奈良時代の税制度『租庸調(そようちょう)』で、各国から集められた調(繊維製品)もあります」

原宝物は襪(しとうず)と呼ばれる楽舞用の足袋だが、織物から再現されている。再現模造『紫地花文錦(むらさきじかもんのにしき)』

──讃岐(さぬき)や伯耆(ほうき)など当時の地名が分かるので、この展示は、小学生の夏休みの研究にもってこいですね! みんな同じ白い織物にみえますが。

「違うんです! おもしろいのが各国で織り方の癖があり、それすらも再現しているんです。たとえば、経糸(たていと)と横糸のツリ方の違いも再現しています。伯耆国(鳥取県中部・西部辺り)は、あまり上手くない(笑)。ムラがあるんです。そのムラさえも再現するなど、どれも忠実に作られています。ぜひ間近で見てください」

「伯耆国(ほうきのくに)の反物(再現模造『伯耆国調白絁(ほうきのくにのちょうのしろあしぎぬ)』)は、あまり上手くない(笑)。ムラがあるんです。そのムラさえも再現しています」と中川学芸員

 ◇ ◇ ◇

宮内庁正倉院事務所が伝統工芸技術者とともに「もう一つの正倉院宝物を造る」という意気込みで制作した意味がよく分かる気合の入った同展。

中川さんが企画した子ども向けの展覧会ガイドブック(無料)は、クイズマンガで各宝物を紹介。キャラクターの「花ジカせんせい」(花鹿)と「オシドリん」(おしどり)は、実際の正倉院宝物に描かれている動物から作られているのも見どころだ。料金は一般1500円。

※『国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』とは、756年6月21日に光明皇后が聖武天皇の遺品、約600点を東大寺に献納した際の目録

取材・写真/いずみゆか

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