588人と対戦、坂口拓「戦えなくなることが俺の負け」
「5千人なら5、6時間くらいで倒せるんじゃないかな」
──その点で坂口さんは、『狂武蔵』もそうですし、若い頃は道場破りもしたそうですね。
YouTubeで石井東吾先生(※註1)とコラボしたときも話しましたが、21歳くらいのとき、ジークンドージャパンに道場破りに行きました。だから、「不良で喧嘩ばっかりしていたんじゃないか」と言われることもあるけど、俺は一度も不良になったことはない。
本物のアクションを知りたいだけ。負けることが怖いわけでもない。むしろ負けることは全然良い。戦えなくなることが俺の負けなんです。
※註1・・・ブルース・リーが弟子のテッド・ウォンに伝えた最晩年のスタイル、ジークンドーファイナルステージの継承者
──ちなみに朝倉海選手のお兄さん、朝倉未来選手は暴走族50人を相手に自分と仲間1人で戦ったエピソードがありますよね。今作の坂口さんは588対1ですけど、実際に何人まで対応可能なんでしょうか。
かかっていく立場でいえば、1人に対して組める人数は5人が限界。それ以上だと渋滞するんで、逆に攻撃しづらい。あと1対1の方が難しいんです。なぜかというと、集団心理として味方が大勢いれば安心に繋がるから。
1対1なら、こちらが殴ろうとすると相手もちゃんと反応する。でも5人だと、安心から隙ができて、休むヤツもでてくる。だからパンチ、蹴りは当たりやすい。簡単ですよ。
──簡単!? 何を言っているんですか!
『狂武蔵』のように映画のなかでリアルファイトをやれと言われたら、5千人が限界ですね。それ以上は体力が厳しい。『狂武蔵』のときは後半、ゾーンに入っていたんで「このまま朝までいけそう」って感じだった。1万人はつらいけど、5千なら5、6時間くらいで倒せるんじゃないかな。
──よほど強い相手が出てこない限りはその時間内で5千人はクリアできるということですね。
いや、強さなんて関係ないんよ。刀を持って斬り合えば、どちらかが必ず死ぬわけだし、それで終わりなんです。あ、これは全部映画のなかでやったらという話ですよ。なんかここにいる皆さんが全員、殺人鬼を見るような目になっていますけど!
──坂口さんが話すとリアルでしかないんですよ。
まあ、俺のリングは映画なんで。そこはブレない。一流の格闘家の人たちが「坂口と勝敗を決めたい」というのであれば、映画の世界のなかであればガチで戦います。『狂武蔵』みたいな形で。俺はリングでは戦わないんです。それが俺のアクション道なんです。
──一方で同作はフィクショナルなところもちゃんと用意されています。笑えるような仕掛けとして、隠しアイテムのように水が入った筒が用意されている。それを武蔵が見つけて、給水する。あのあたりは演出の面白さですね。
さすがに70分以上ずっと斬り続けているのはきついし、ブレイクタイムは作っていこうという話になっていたんです。でもいざ水を摂取しようとしたら、ハードすぎて喉が張り付くというか、気管がふさがっちゃって。水が喉を通らないんです。
──だから、水を飲まずにブッと吐き出し続けていたんですね。
この間、戦場の特殊部隊の人たちと飲んでいるとき、「『狂武蔵』で水が飲めないのは戦場あるあるだよね」って話していました。「俺たちも戦場で水が喉を通らないことがある」って。後半で一度だけかな、ちょっと飲めたのは。出てくる言葉も用意された台詞じゃないし、全部がリアルそのものですね。
──途中で「かかって来いよ」と言わんばかりに指をクイクイっとする仕草があるじゃないですか。あれも、もともと芝居として用意していたものではないんですか。
その場でとっさに出たものです。俺がゾーンに入っていくにつれて、絡む連中(敵役)が怖がってかかってこなくなった。「タクさん、イっちゃってんじゃん」って感じで。だから俺は「来いよ、どんどん殺してくれよ。何やってんだお前ら」って。あの仕草は俺の飢えのあらわれなんです。
──今回の剣闘もそうですが、坂口さんは時代劇のアクションを基軸にしていますよね。日本映画の現代アクションをやる上であっても、そこは基礎的に身につけておくべきものなのでしょうか。
これは俺自身の思いなんですが、自分がこれから何を残したいか考えたとき、日本の侍文化と伝統に行き着いたんです。それを誇れるような映画を作りたくなった。例えば今、ヒットをしている日本映画を観ていて、「これをアメリカに持っていきたいですか?」と思っちゃうんです。「これが日本を代表できますか?」って。
──なるほど。
『狂武蔵』が良いか悪いか、それはお客さんが判断してくれたら良い。でも日本でアクションをやっている連中に「これをやれるか? ここまで傾(かぶ)けるか?」と言いたい。
ニコラス・ケイジに会ったらよく「お前はイカれてる」と言われるんです。でも「俺は侍だから。だからここまで戦えるんだ」と答える。韓国映画を観ていても今はアクションがすごい。それに比べて日本映画はいつからこんなに幼稚になったのか・・・って。いつから戦いができなくなったんだと思う。
──世界的な話へと膨らみましたけど、アクション俳優がたくさんいるなかで「今、こいつはすごいな」と思える人はいますか。
・・・・逆に誰かいます?
──そうきましたか!
もしいるんだったら俺は引退しますよ。俳優たちができないことをやるのが、俺の仕事。「命を削る」みたいな台詞ってあるけど、簡単なものじゃない。ただ、それをリアルにするのが俺の役目。普通の俳優さんは命をかけちゃいけないと思う。だから、「逆にいますか?」という答えになるんです。
──坂口さんにしか言えない回答ですよ。
今は世界を見渡してもいないんじゃないですか、すごいアクション俳優というのは。あ、これは俳優ではないけど、YouTubeに出ていただいた武井壮さんはすごかった。身体能力の化け物。武井さんは個人事務所で活動していて、自分の身ひとつで戦っているし、共感できる部分が多い。
格闘家を除けば、「すごい」と思えるのは武井さんくらい。いつかYouTubeで、「どちらが先にライオンやクマを倒せるか」みたいな企画をやってみたいですね。
『狂武蔵』
2020年8月21日(金)公開
監督:下村勇二
出演 : TAK∴(坂口拓)、山﨑賢人、斎藤洋介、樋浦勉
原案協力:園子温
配給:アルバトロス・フィルム
関西の上映館:シネ・リーブル梅田(〜8/27)、イオンシネマ茨木、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸(8/28〜9/3)、イオンシネマ西大和、イオンシネマ和歌山
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