芦田愛菜の主演映画「演技が適確だからこそ、意図しないものを」

2020.10.11 20:15

『まほろ駅前多田便利軒』『セトウツミ』『光』なども手掛けた、大森監督

(写真5枚)

「主人公も観る側も考え続けることによって、意味が深まる」

──新興宗教が大きなモチーフとして出てきますが、これも、これまで映画で描かれてきたよくある視点からのアプローチでなかったのも印象的でした。

新興宗教を信奉する人たちVSそれに反目する人たちといった、単純な二項対立にはしていません。主人公の少女は両者の間で揺れるわけですし。また、彼女のほかにも、さまざまな形で教団に関わる人たちが出てきます。

──少女の同級生で、幼いときは教団に距離を置いていたのに、いまは少し積極的になっている女の子や、出演シーンはわずかですが、普通に話せるのに、信者である親をはじめ、だれにも口を閉ざしている少年などに興味を引かれました。

そういう子たちもまた、少女があれこれと考えをめぐらす要因になっていくわけです。宗教に染まった家を嫌って家出している少女の姉もそうですね。

──教団の若い幹部を演じた高良健吾さんと黒木華さんも存在感がありましたし、教団の総会の様子などしっかりと描かれているなと思いました。

新興宗教がテーマでもなんでもないんですが、そこはいろいろ調べておかしくないようにはしました。助監督たちも張り切って調べてきてくれるんですよ。

──そしてラストシーンですが、監督は主人公の少女をどう捉えていますか?

彼女は、これからもずっと考え続けることをやめなければ、大丈夫だと思っています。彼女にはいくつか悩みがありますが、なんでも本音で言い合える友人もいるし、両親も彼女ことを愛し、気づかってくれてもいる。

彼女も両親のことは大好きですし。映画の中盤である諍いがあって、実はラストシーンまで家族3人がゆっくり話すシーンはないんです。その間にも彼女はずっと考えて続けているはずだし、そんな彼女なら間違った方向にはいかない、そんな気がしています。

流れ星を見上げる両親とちひろ。 ©️2020「星の子」製作委員会
流れ星を見上げる両親とちひろ。この雪は偶然の天気だったそう。(C)2020「星の子」製作委員会

──両親を演じる永瀬正敏さんも原田知世さんもやさしいですよね。そんななか少女が教団に対して懐疑的になってきているのは、禁止されているコーヒーを飲むところからもうかがえます。

彼女がこれから教団とどう向き合っていくかはわかりません。両親はきっと変わらないでしょうし。でも、彼女も自分をしっかりと持つことで成長していきます。コーヒーが飲めるようになるのは、少女の大人への成長という意味もあるんです(笑)。

──そう聞くと、いろいろ考えるべきところが浮かんできます。

観てくれた人に考えてほしいんです。実は、原作は一人称で書かれているのですが、今回、ナレーションは一切使ってないんです。少女の台詞も極力少なくしています。それは観ている人が見出そうとする意味を、台詞が限定してしまうのを避けるためです。

ましてナレーションで心情を語ってしまったらなんにもならない。観る側にとっては難しくなる面もあるけれど、主人公も観る側も考え続けることによって、意味は深まっていくと思うんです。そのための、考えることを促したり手助けしたりするポイントはぎりぎり掬えるようにしたつもりです。

──最終的に必要なのは、観る側の考えるという働きかけですね。

そう願えれば、と思っています。

映画『星の子』

2020年10月9日(金)公開
監督・脚本:大森立嗣
出演:芦田愛菜、岡⽥将⽣、黒木華、永瀬正敏、原⽥知世
配給:東京テアトル、ヨアケ

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