小栗旬、星野源の主演映画「二人の関係性を色濃く」
「今の観客にも地続きのものとして見てもらえるかな」
──監督って、映画撮られるときとテレビ撮られる時って演出スタイルの違いみたいなものはあるんですか?
「基本的にそんなに違わないと思いますけど。昔はフィルムとビデオって明らかな違いがあったんですが、今はほとんど変わらないんですよね。ただ映画はやはり文脈が違うというか、なるべく観客の想像力に訴える部分を多くしたいとは思ってますね、全てを説明してしまうのではなく。僕は最初から映画をやらせてもらうときは、美術も撮影も含めて映画のスタッフのなかに僕が入るというスタイルにわりとこだわってるんです」
──今回も撮影は三池崇史作品とか北野武『HANA-BI』の山本英夫さんだし、美術は大阪人の磯見俊裕さん。どちらも今の映画界に欠かせぬ才能ですよね。
「演出という意味において僕がする作業自体は、映画とテレビでそんなには違わないと思いますけど、やっぱり映画には映画のプロがいて、彼らに見えている世界がある。それを僕は知りたいし、僕自身も映画が好きで育ってきた人間だから、例えば、あの映画を撮ったカメラマンの人と仕事ができるの? とか、あの映画の美術をやった人と仕事ができるんだっていう自分自身の歓びもあるから、映画をやるときには基本的に映画のスタッフのなかに自分が飛び込んでいくというスタイルです」
──なるほど。
「ただ、テレビドラマをやってきているディレクターは『尺』・・・テレビって、何分何秒まで毎回きっちり合わせて出さないといけないという宿命があるじゃないですか。どこかでその尺という感覚が刷り込まれていると思うんですよね。それは例えば映画をやるときには少しマイナスになる場合もあると思うんですよ。変な話、できあがりが自分で見えてしまってそれに向けて作ってしまうみたいな。ただ今回みたいな膨大な情報量のもの、回想も含めてものすごく複雑な構造のものをやるときには、ある種の計算力というのは役に立つ部分もあったかな、と思いました」
──だからこそ、まさにジェットコースター・ムーヴィーのようなテンポで引き込まれていきますもんね。
「そうでしたか? 最初はどうしても上映時間が3時間以上かかるような脚本の厚みになってしまったんだけど、脚本段階でなんとか2時間40分ぐらいまで削って、撮影に入ったんです。撮りあがって、最終的にブラッシュアップしていくなかで『砂の器』(1974年)って何分だった?って(笑)」
──ええっと、2時間半ほど?
「たしか2時間23分なんです。初めて言いますけど、自分のなかのガイドラインはそこでした。だから最初見た人に、長く感じたかどうかをリサーチして。でも意外にみんな大丈夫、大丈夫って言ってくれたので、それでやっとホッとできました。ただ、映画をやるときには、1シーン1カットで見せるようなシーンを必ずどこかに作りたいと思っていて。今回は二人が瀬戸大橋のたもとでしゃべるシーン・・・夕暮れ時に二人が車を止めてしゃべるという1枚の画のなかで、阿久津が自分の内面をはじめて吐露するというところがあるんですけど。どこか必ずそういう箇所を作るのが、自分が映画をやるうえでの、ある種の覚悟みたいなものとしてあるんです」
──あのシーンは誰もが印象に残るでしょう。二人の関係性がちょっと進展する。バディとしての距離が急速に縮まるシーンだし。
「考えてみれば、これはほぼ同世代の二人が出会って、ある時間を一緒に過ごしていく話なんです。彼らが見ていたテレビとか、聴いていた音楽とか、読んでいた漫画とか、そういうものはぜったい近いし、そういう部分でのシンパシーみたいなものは自然に生まれるんじゃないかなと思っていて。単純に事件のことだけを話していても、そういう暗黙の空気が二人のなかに生まれれば良いな、という狙いではありました」
──でもこの映画の深奥には、1970年代の政治闘争の熱があります。阿久津・曽根もまだ生まれていない時代の話。もはや近現代史です。
「それで言うと僕らにしたって、僕らの世代よりも上の世代の人の話ですよね。僕らも直接的には知らない」
──まあ、残り香みたいなものは周りにはいっぱいありましたが。
「そうですね。大学のなかにちょっと近寄りがたい地下の何かとか、立て看板とかね」
──ゲバ文字とか普通にまだ引き継がれてました(笑)。
「でも、去年から香港の学生運動とかを見ていると、そんな遠い昔の話ではないなと改めて感じましたね。僕は去年、この映画で60年代後半の学生運動の火炎瓶や石を投げたりするシーンを撮っていて、ある日ニュースを見たら画面のなかでは全く同じような光景が流れていた。それを見ていて、逆に今、あの時代は今の観客にも地続きのものとして見てもらえるかな、とも思いましたね。あと、この事件は『日本初の劇場型犯罪』とか言われますけれど、今SNSとかで起きていることって、もっと深刻にそうした側面があるんじゃないかなと。情報の送り手と受け手がダイレクトになったことの功罪の罪の部分。何が真相かちゃんと検証されないまま、情報がただ面白おかしく、あっという間に広がり消費されるという恐ろしさがありますよね。そういう意味で、この物語は本当に昔話ではないなと改めて思いますね」
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