はるな愛、初の映画監督作を通して「辛くても生き抜いて」

2020.11.29 17:15

「吉野ママの話を伝えたい」と初めて映画監督に挑戦したはるな愛

(写真10枚)

「男性に戻ろうかと悩んだことがあったんです」

──「多様性」という言葉について改めて考える機会が増えてきていますが、性別問題、人種問題はもちろん、いろんな物事に対する考え方そのものが多様であるべきということですね。

友だちの女の子の家へ遊びに行ったら、黒、グレーの色の服ばかり置いてあるときがある。それ自体は何も悪くないけど、「もっといろんな色の服を着ようよ。私のクローゼットには紫の羽が付いているものや、スパンコールの服とかいろいろあるんだから!」って言っているんです。だって、いろんな女の人になった方が楽しいから。

──確かに僕も、服もそうですけど自分自身について偏って考えてしまいがちです。

性別のこと、生き方のこと、何事も偏って考えて欲しくない。私はこういう人生だったから、余計にそう思うんです。だから「やりたいなら、何でもやってみようよ」って。

だって来るときが来たら、いつかみんな死んでしまうんだから。でも、それまでは絶対に生き抜かないといけない。どんなことがあっても、生きてもらいたいんです。だから生きづらいとか、苦しいとか、考えて・・・。ごめんなさい、涙が出てきてしまいました。

──いえいえ、お気持ちは分かります。

すみません。私も「もう死にたい」という思いが何度もありました。それでも何とか、ここまで生き抜いてやってきました。だからみなさんにも・・・生きてもらいたくって。生きて、そして「この映画を観てよ」って。楽に、好きなように生きて大丈夫なんだから。顔がぐしゃぐしゃになっちゃって、ごめんなさい。

ママのお店はセットで再現。(C)シネマスコーレ

──はるなさんだからこそ伝えられるコメントだと思います。お話を聞いていて、問題として向き合うものはちゃんと向き合い、一方で「楽に考えよう」ということも必要な気がしました。LGBTQについて以前より意識が深まってきているはずですが、「話を聞いても笑ってはいけない」という風潮も出てきています。ただ映画のなかで吉野ママは、自分の性別や性体験をネタにして笑わせてくれますね。

そうなんです。吉野ママの話って笑えますよね。私はLGBTQという言葉を初めて耳にしたとき、「じゃあ私はTに入るの?」と思ったんです。もちろん、その言葉ができたことによって気持ちが楽になった人はたくさんいます。

一方で、先ほどおっしゃられたように過度な傾向も確かにありますし、LGBTQという言葉自体、私は「型にはめさせられているんじゃないかな」と感じる場面がときどきあります。

──なるほど。

その言葉はみなさんの入口にはなる。居場所になる。だけどグラデーションでもあります。だって、ひとりとして同じ人はいませんから。この映画のメイキングで私は、吉野ママに「LGBTという言葉を逆に苦しいと思わない?」と尋ねていますよね。問題意識が深まっている時期だからこそ、「もっと自由であっても良い」ということも考えてほしい。だからこそ私は、たくさんの方に私のことを笑ってもらいたい。

いろんな人がいるし、言葉にこだわりすぎず、そこから一歩踏み出せるようになったら良いなって。もともとLGBTというワードがあって、近年はそこにQの頭文字がくっついたけど、人間のあり方ってもっとたくさんあるじゃないですか。人の数ほど頭文字はついてきて、覚えられないくらいになるはずなんだから。

──はるなさんがいろんな肩書きを持っている意味が分かってきた気がします。

うん、すべての物事には個性があるから。何をするにも怖がりたくないんです。私は今までいろんなことがあって、それでも生きてきたから、人に何を言われようと今は怖くなくなってきました。自分のやりたいことをやる。だって人生一度きりだもん。

映画監督として、映画評論がしづらくなるのではという質問に対して、「自分が作ったものと、他人はまた別。素直に思ったことをこれからも言います」とはるな愛

──映画監督にチャレンジした理由も頷けます。

たとえば1本の映画を観て、全然おもしろくなかったと感じたとしても、後に意見が変わることってあるじゃないですか。私は一時期、男性に戻ろうかと悩んだことがあったんです。映画の宣伝で男装をしたとき、気持ちがどんどん男性側に行ってしまって。

当時、事務所の方にも「明日からスカートを履きたくないです」と伝えました。ただ仕事的にやっぱりそれは難しかったそうで、「だったら大西賢示というキャラを新しく作ってくれないか」と言ったくらい。私はそのときは、男として生きたくなったから。

──そんなこともあるんですね。

そういう人って決して少なくないんじゃないかな。それだけ人間の気持ちは揺らぐものなんです。でも、そうなったら「ごめんなさい、今はこういう気持ちなんです」と素直に言えるかどうか。私はそんな人間でありたいし、また、そういう人間を受け入れられるような社会になってほしいです。

映画『mama』は、大阪・九条「シネ・ヌーヴォ」で12月6日に関西で先行上映したのち、1月16日から公開。1月22日から「京都みなみ会館」ほかで順次公開予定。

『mama』

監督:はるな愛
出演者:吉野ママ、たけうち亜美、ゆしん、田中俊介ほか

ドキュメンタリー
監督:木全純治
出演者:吉野ママ、たけうち亜美、ゆしん、田中俊介、はるな愛ほか

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