2020年下半期に見逃していない? 観るべき邦画の評論家鼎談

2021.1.2 09:15

大伴恭一演じる大倉忠義、今ヶ瀬渉を演じる成田凌。©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

(写真8枚)

斉藤「映画で、瀬田なつきは今のところハズレなし」

斉藤「撮影でいえば、瀬田なつきの『ジオラマボーイ・パノラマガール』。映画の運動性をやっぱり捉えられる監督やねえ」

田辺「『ジオラマボーイ・パノラマガール』も僕のナンバーワン候補。オープニングからキャメラがずっと右から左に動く。瀬田なつきはそもそも運動と移動の監督。男性主人公の鈴木仁が坂道を自転車でこいで、周りが挫折して自転車を降りる。そして、自分の未来の話が始まる。その横を電動自転車の女性が軽々と追い抜いていく。そして一緒に並走する電車。人、物、街の全部が上下左右に動く。アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』(2018年)ですよ、まるで」

斉藤「瀬田なつき監督はアマチュア時代の短編も含めて、ミュージカルではないけれども、ミュージカル構造とも言える人間の運動性が魅力だから」

田辺「未来に進む様を前進移動で表して、身長が伸びたかどうかというエピソードも織り込んで、山田杏奈が、母親役の大塚寧々に『あんた1センチ伸びたわね』とか言われたり。背丈も運動であるし。その後、ヒロインの初体験などの成長話につながってくる。鼻血をめぐる変化とか、細かいこともやっていてね」

斉藤「主演の山田杏奈、鈴木仁ももちろん良いんだけど、滝沢エリカがすごかったよな。鈴木仁が好きになる女性」

渋谷ハルコ役の山田杏奈、神奈川ケンイチ役の鈴木仁。(C)2020岡崎京子/「ジオラマボーイ・パノラマガール」製作委員会

田辺「滝沢エリカはまさに運動の象徴。歩いているときもクルッと回ったりして、面倒臭い男性の誘いを飄々と交わしたりしてね。運動で言えば鈴木仁が、最初はスケボーに乗れないけれど、練習をしていって乗れるようになるところとか」

斉藤「岡崎京子の原作っていくつかあるけど、現代ってところに一番落とし込めていた。それこそオザケン(小沢健二)の曲、大瀧詠一の『A LONG VACAITION』、村上春樹の本とか。どれも、今でも通用するカルチャーを出している。いやぁ、映画では瀬田なつきは今のところハズレなしだね」

春岡「そろそろ2020年下半期のベストスリーなんだけど、1番は『窮鼠はチーズの夢を見る』で確定か。俺は『アンダードッグ』も3本のなかに加えたいが」

田辺「『窮鼠』は間違いないでしょう。あと二宮健監督の『とんかつDJアゲ太郎』を入れてあげたい。彼は、日本映画の新たな希望です」

斉藤「分かる、『とんかつDJアゲ太郎』はベスト3にしてあげたい。でも『ジオラマボーイ・パノラマガール』も捨てがたい。『東京の恋人』と『アルプススタンドのはしの方』も3番目には引っ掛けたいが」

田辺「『窮鼠はチーズの夢を見る』、『とんかつDJアゲ太郎』は確定でしょうか」

春岡「それに加えて、僕は『アンダードッグ』押しだな」

斉藤「僕は『眠る虫』。金子由里奈監督の今後の作品も楽しみ」

田辺「僕は『ジオラマボーイ・パノラマガール』です、最後の1本はそれぞれ全く違いましたね!」

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