2020年下半期に見逃していない? 観るべき洋画の評論家鼎談
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モデル活動もおこなう主役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。『ハッピー・オールド・イヤー』。(c) 2019 GDH 559 Co., Ltd.
斉藤「ナワポンの映画を観ていないと今の映画は語り始められない」
春岡「俺はあと『燃える女の肖像』がなかなか良かったね」
斉藤「いや、傑作ですよね。女性肖像画家と、描かれる対象の女性の愛だけでなく、小間使いの女性も含めた、まさに女性だけの濃密な世界。島の女性が集まってコーラスとクラッピングで歌いだす祭りのシーンなんてゾクゾクする」
春岡「それとドキュメンタリーの『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』。俺、学生のときヘルムート・ニュートンのカレンダーを買っていたんだよね」
斉藤「ヘルムート・ニュートンは僕も大好きなんですよ。今だったらコンプライアンスやらポリティカル・コレクトネスやらで、絶対にできへん表現やん。それを『撮られた側』から語ってみせるのがおもしろい」」
春岡「シャーロット・ランプリング、イザベラ・ロッセリーニ、アナ・ウィンターとかね。特にイザベラ・ロッセリーニは真っ当にヘルムート・ニュートンを分析しているけど、シャーロット・ランプリングがあることを言うんだよね。もうね、何も言えなくなるよ」
斉藤「それはそう。『愛の嵐』(1974年)のすぐ後に撮られたんだしね」
春岡「あとさ、ハンナ・シグラが意外に庶民的になっていたのがびっくりした。で、ヘルムート・ニュートンは坊ちゃまで、ああいうの作っていたんだよね。それを知っていて『私は地位型じゃないの』とか言っているところがおもしろかった」
斉藤「僕らの世代なら知っているフェミニズムの巨頭、スーザン・ソンタグによる大批判シーンもしっかり入ってるし。あと驚いたのが、そんなセクシュアルで挑発的な写真ばかり撮る彼をずっとマネジメントしてたのは奥さんだったってこと! 彼女ももともと写真家で、晩年に共同写真展をやっている。お互いにヌードになったりして」
春岡「ヘルムート・ニュートン自身、『今の自分があるのは妻のおかげ』と言っているんだよね。やっぱりさ、ヨーロッパの20世紀を振りかえるドキュメンタリーはおもしろいよ。あとさ、『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男ピエール・カルダン』。カルダンって実は当時はダサかったんだよ。俺らのガキの頃はコップでもなんでもいろんなものにピエール・カルダンのロゴが入っていてさ」
斉藤「うん、確かにそうだった(笑)。僕はピチカート・ファイヴと仕事してた時に、フランチャイズ化する前の時代のカルダンを知ったからね。スペイシーな時代のカルダンとか。そういう意味で総復習できるドキュメンタリーだったな」
田辺「あと下半期の話題作としては韓国映画の『はちどり』。キム・ボラ監督は1981年生まれで、思春期に韓国の経済成長とその行き詰まりを通過していた。ソウルの聖水大橋崩落、北朝鮮の金日成の死などを絡ませながら、自分をシンクロさせたような14歳の少女の青春を描いていく。脚本はうまいし、音響も見事だし、撮影技術面も言うことなしなんだけど・・・」
斉藤「センスは抜群なのよ。音、照明、キャメラ、すべてが良い。監督として才能がある。この10年くらい、韓国映画はちょっと普通な感じだったけど、若い世代は間違いなく育って、アクション映画もおもしろいものがどんどん作られている。『はちどり』のキム・ボラ監督はまさにその流れにあると思うのよ。ただ、『はちどり』は作家性は感じられるし、完成度も高いけどクセがないんだよな」
田辺「それって『82年生まれ、キム・ジヨン』にも言えることかもしれない。ただ、そういうクセのなさも良かったりする。でも『はちどり』がとらえている空気感は、ちょっと前の韓国映画がすでにやっていることな気がします」
斉藤「その通り。作品として認めるし、何度も言うように技術はめちゃくちゃ高い。たくさんの人が絶賛する理由も頷けるけど、僕自身はそこまで評価はしない」
春岡「なるほどね。嫌味のない映画だよな。ダメって言うところがないんだよね」
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斉藤「その点、僕がずーっと推しているタイのナワポン・タムロンラタナリット監督の日本劇場初公開作『ハッピー・オールド・イヤー』、これがまた大傑作なのよ。2020年の『第15回大阪アジアン映画祭』グランプリも受賞しているけど。ホント、彼の映画を観ていないと今の映画は語り始められない。世界の最先端だからさ」
田辺「2015年の『フリーランス』は僕もその年のベスト級大傑作。『はちどり』のキム・ボラ監督、そしてこのナワポン監督には世界の映画の新しい波を感じます。で、『ハッピー・オールド・イヤー』は断捨離を題材にした物語で、そこまでやるかってくらい切り込んでくる。ミニマリズムの話ではあるんだけど・・・!」
斉藤「そもそもナワポンの映像スタイルがミニマルだしね。ただ物語は、なんなら『断捨離なんてバカだよね』という部分まで及んじゃう。そもそもナワポンはメメント・モリなんですよね。死を思う、という感情が作品にいつも漂っている」
田辺「僕は過去作は『フリーランス』しか観れていないんですけど、まさにそういうことでしたね」
斉藤「だからさ、ナワポンの全過去作をどこかでちゃんと特集上映してほしいのよ。ナワポンは今のタイの若手作家のカリスマなんだから。BNK48のドキュメンタリー映画『BNK48:GirlsDon’tCry』(2018年)、東京国際映画祭でしかやっていない『マリー・イズ・ハッピー』(2013年)とかさ。タイではGDHという大メジャーで2本撮っていて、いずれも大ヒット。実験映画もメジャーも撮れる才能なんだよね」
田辺「『ハッピー・オールド・イヤー』は確かに2020年のナンバーワン候補」
斉藤「だよなあ。主演は『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年)のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。基本、無表情なんだけどそのバリエーションが無限にあって、それで悲喜こもごも全部表現できちゃうというコメディエンヌの才能を見せちゃったね」
田辺「あと僕は、ディズニープラスで鑑賞した『ソウルフル・ワールド』。ジャズシーンの実情を織り込んだ音楽アニメーション映画としてベストな出来でした。『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』は今の社会状況と重なるところが多くて、あとグラミー賞のサントラ部門にノミネートされているけど使用楽曲が良いんですよ。『バクラウ 地図から消された村』は、2020年上半期のマイベスト『ミッドサマー』に近いんだけど、カオス度は間違いなくこっち。大笑いしました」
斉藤「近いっちゃ近いけど、まあフォークロアの強靭さと恐ろしさね(笑)。話の全体像が判明してもカオス度はさらに増していくという(笑)。ニコラス・ケイジのラヴクラフトもの『カラー・オブ・スペース 遭遇』も入れたいね。リチャード・スタンリーの25年ぶりの長編作だけどセンスが全然衰えていない。それと実在に事件をあつかった『シチリアーノ 裏切りの美学』。大巨匠マルコ・ベロッキオ監督が撮ったんだけど、ヒッチコック的な表現もあったりしてね。毒の抜けなさもすごいし、ベロッキオのなかでも1、2を争うんじゃないかな」
春岡「2020年下半期だけど、俺は『ヘルムート・ニュートン』かなあ。あと『鵞鳥湖』はやっぱり入れておきたい」
斉藤「下半期は明らかにどうかしている映画が多いんですけど(笑)、やっぱ『ハッピー・オールド・イヤー』かな」
田辺「僕も『ハッピー・オールド・イヤー』に1票なんですけど、『透明人間』、『ブルータル・ジャスティス』、『鵞鳥湖の夜』もベスト3には入れておきたいくらい好き」
斉藤「うん、『ブルータル・ジャスティス』は観た瞬間に「これは1番かも」と思ったからさ。『透明人間』はさ、映画秘宝とかに入るだろうし(笑)、『ブルータル・ジャスティス』、『ハッピー・オールド・イヤー』、『鵞鳥湖の夜』の3本で良いんじゃないか!」
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