美しき孤独の共鳴、明日海りお×千葉雄大の舞台『ポーの一族』

2021.1.16 13:15

エドガー役で「極上の美」を再び体現した明日海りお(左)と、何かにすがるような儚さをも見せたアラン役の千葉雄大。撮影:岸隆子(Studio Elenish)

(写真6枚)

豊かな生演奏の響きとともに、新たな伝説の幕が上がった。元花組トップスター明日海りお、千葉雄大らが出演し、1月26日まで「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)で上演中の『ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」』。

半世紀近く愛される萩尾望都氏の傑作少女漫画を、宝塚歌劇団が2018年に念願の舞台化。萩尾氏も絶賛した作品世界が、再び小池修一郎の脚本・演出で3年ぶりに舞台上に現れた。

薔薇に囲まれた館に住むポーの一族の秘密を目撃した孤児のエドガーは、望まずしてバンパネラ(吸血鬼)となり、少年のまま終わりなき旅を続ける。物語の流れは初演のままに、新たに細かなナンバーやダイナミックな振付が追加。回り舞台を使った高さのあるセットや、ゴシック調の趣が増した衣装で、より原作に近い重厚で耽美的な世界を描き出した。

霧の森の奥から立ち現れるポーの一族。原作の言葉を散りばめた台詞や歌詞、壮大な音楽によって一気に神秘の世界へ引き込まれる。撮影:岸隆子(Studio Elenish)

主役のエドガー・ポーツネルを演じるのは、高い演技力と美貌を兼ね備えた明日海りお。初演と同じく、赤い薔薇を手に「この世ならぬもの」感を全身にまとって登場する。女優として初の舞台で、多彩な男女キャストのなか、さらに際立った異質な輝きを放ち、それがバンパネラの孤高の存在と見事に重なる。この再演は必然だったのだと思わせるほどに。

慈しみに満ちた愛から永い時の中で生まれる虚無感まで、明日海は深みの増した歌声にのせてジンジンと届ける。特に、男優たちの躍動的なダンスに呼応するかのように、内から溢れ出る思いを表現するナンバー『エドガーの狂気』の激しさに驚かされた。

バンパネラとなったエドガー(明日海)は眼差しが鋭く変化。心には深い葛藤を抱えている。撮影:岸隆子(Studio Elenish)

エドガーと運命的に出会う、有力一家の跡取り息子アラン・トワイライト役は、ミュージカル初挑戦の千葉雄大。複雑な家庭事情を抱える勝気なアランの、原作を投影したような寂しげな眼差しが印象的で、無邪気な反抗と素直な心が見え隠れする、身近な少年性を感じさせる造形に。

だからこそ、エドガーとアラン、2人の孤独が共鳴するような終盤のクライマックスは、多くの若者が求める普遍的な自己存在感への、救いを見る至福があった。

キャストは端々まで充実し、バンパネラのフランク・ポーツネル男爵(小西遼生)と、シーラ・ポーツネル男爵夫人(夢咲ねね)の愛には、揺るぎない安定感が漂う。メリーベルの綺咲愛里は、兄エドガーへの思いや過去の恋を、新たな表現を通して丁寧に紡ぎ出す。医師ジャン・クリフォード役の中村橋之助は、迫真の演技で作品のテーマをも浮かび上がらせた。

また、数々のミュージカルを経験してきた福井晶一と涼風真世が、一族の長や謎めいた霊能者として、舞台の空気を瞬時に変える圧倒的な歌声と存在感を見せたことも忘れがたい。

「愛がなくては生きてはいけない」ともがきつつ、旅を続けるエドガーたちの姿は、困難な今の世に大きな命題を投げかけているのでないだろうか。疎外され絶望しても、自分の居場所を見つけ、存在のかけらを残していくバンパネラ。どこかに生きている、私たちのそばにいる――、そんな無限に想像力を膨らませる彼らと、再び逢えることを願ってやまない。

大阪公演は1月26日まで。チケットはS席14000円ほか。2月に東京、名古屋でも上演予定。なお、1月16日・23日はライブ配信も実施。詳細は公式サイトへ。

取材・文/小野寺亜紀

ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』

日程:2021年1月11日(月・祝)~2021年1月26日(火)
会場:梅田芸術劇場メインホール
料金:S席1万4000円、A席9500円、B席5500円
電話:06-6377-3800(梅田芸術劇場)

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