話題の「韓国サバイバルホラー」ドラマ、住宅事情から紐解く

巨大な怪物、それよりも巨大なのが「グリーンホーム」。Netflixオリジナルシリーズ「Sweet Home -俺と世界の絶望-」
見始めたら止まらない動画配信ドラマ・映画を、映画評論家・田辺ユウキがセレクト。今回紹介するのは、2020年12月に配信がスタートした途端、爆発的な視聴回数を叩き出したNetflixオリジナルの韓国サバイバルホラー『Sweet Home ―俺と世界の絶望―』だ。
すでに数多くの情報サイトなどで紹介されている同作だが、このコラムでは韓国のマンション事情を照らし合わせながらそのおもしろさについて触れていきたい。
韓国の同名ウェブ漫画をNetflixが映像化した同作は、突如として市民が次々と怪物化する街を舞台に、高層集合住宅「グリーンホーム」に立てこもって攻防を繰り広げる人々の姿を描いた物語。
人間だった頃の記憶をもとに行動する怪物たちは『アイアムアヒーロー』を彷彿とさせるし、異様かつユーモラスな造形は『GANTZ』。また主人公が怪物と人間の狭間に置かれるところや、作品全体を覆うイメージとしては『進撃の巨人』や『東京喰種トーキョーグール』を思い出さずにはいられない。
あくまで分かりやすい作品例を挙げたが、そういった日本で人気のコミック、アニメ、映画の要素を観る者に意識させる(もちろんほかにも『ウォーキング・デッド』やジョージ・A・ロメロ監督作品などの要素も十分にあるが)。『Sweet Home』が日本で大いにウケている理由の一つは、ある種の親しみがあるからかもしれない。
ちなみに『Sweet Home』という、残酷な物語に相反するようなこのタイトル。これは劇中、ある人物によって意味が解読される。その場面は展開がめまぐるしい作品のなかにおいて、数少ない安らぎを覚えるものである。

出演者は、ドラマ『恋するアプリ』(2019年)のソン・ガンとコ・ミンシ、『ホテルデルーナ』(2019年)のイ・ドヒョン、『ミスター・サンシャイン』(2018年)のキム・ナムヒ、『サイコだけど大丈夫』(2020年)のパク・ギュヨンら注目の若手俳優たちが揃っている。
『Sweet Home』をきっかけに、彼らのInstagramなどSNSをフォローした人たちも多いとか・・・。それくらい各自が劇中で印象的な活躍を見せている。
古びた高層集合住宅が意味するものとは?
『Sweet Home』で重要な役割を果たしているのが、主人公たちが暮らしている古びた高層集合住宅「グリーンホーム」だ。ドラマのなかでは、「なぜここでカメラを引いて、マンションの外観を映すんだろう」と疑問に思う場面が度々出てくる。このショットで気づかされることは、「グリーンホーム」の巨大さ、そして老朽具合である。
「グリーンホーム」にずっと住んでいるという男性は、暮らし始めたのは「日本から独立したときか、朝鮮戦争のとき」と話している。日本からの独立は1945年、朝鮮戦争は1950年。つまりその辺りであるということだ。彼の入居時期が事実かどうかは別として、この台詞は「グリーンホーム」が相当な築年数であることをあらわしている。

韓国は「アパート共和国」と呼ばれている。1950年代後半から経済開発のひとつとして住宅政策を展開。フランスの地理学者、ヴァレリー・ジュレゾーの著書『アパート共和国』には、韓国の大規模アパートをはじめとする住宅事情とそこに暮らす人々の考え方、生き方が記されている。
1970年代、ソウルの農地・江南(カンナム)は特に都市化が進んで、高層集合住宅が次々と建設された。1980年代に入ると中産階級の多くがそこに移り住むなど、当時の韓国のライフスタイルの象徴に。さらに1988年ソウルオリンピックの開催が決定していたこともあり、朝鮮戦争のダメージからの復興を世界にアピールしたい韓国は、大規模都市開発を必要としていた。
オリンピック直後には、盧泰愚政権は住宅不足解消のためのプロジェクト「住宅200万戸建設計画」を推進。全国の地方都市にまでアパートが建ち並ぶことになった。一方で、韓国では経済成長期に着工された建造物の施工問題や老朽化が問題視されるようになった。
映画『はちどり』でも描かれた建造物の崩壊
たとえば映画『はちどり』(2020年)では、1994年に突然崩落して大きな被害となった聖水(ソンス)大橋のエピソードがまじえられた。1977年に工事が着工されたこの橋は、施工段階で手抜き工事が発覚。多くの人が犠牲に。
1995年には三豊百貨店が崩壊。死者502名、負傷者937名、行方不明者6名という建物崩壊事故では最大規模の被害となった。2016年にはソウル近郊で、自然災害による被害が想定される危険施設物認定を受けても住民が暮らし続けるマンションが見つかり、報道された。

ソウルオリンピック前後で韓国のアパート人気は上昇し、同時に住宅価格も高騰化。韓国では長年、それが大きな社会問題としてのしかかっていた。さらに2020年からは新型コロナの感染拡大による経済の下落、失業者の増加。住んでいる場所がどれだけ老朽化しても、新しい場所へ移り住むことができないのが現状だ。
そういった背景を重ねて『Sweet Home』を観て欲しい。まず改めて感じさせるのは、人間を脅かす危機は突然やってくること。また、近代韓国の発展とともに人々の生活が追い込まれていった現実や、劇中で横暴な振る舞いをする男性の怪物化と女性たちの奮闘も含めて、社会のあり方と価値観の立て(建て)直しを訴えているように思える。
本当に残酷なのは・・・怪物ではない
多種多様な怪物たちが人間に襲いかかる描写の躊躇のなさがおもしろい同作。だが、本当に残酷なのは登場人物が直面する現実だ。
「グリーンホーム」の住人たちの多くは、「居場所のなさ」を抱えている。この物語における居場所とはなんなのか。それは「自分にとって本当に大事な存在」である。
たとえば主人公のヒョンスは車の事故で家族全員を失った。もともと家族とは関係性が良くなかったが、生活をする上での支えをなくしたことで「自分はこの先、どうやって生きていけば良いんだ」と絶望する。
また彼は、もともと学校で活発な人間だった。しかし転校生に対する接し方をきっかけに、クラス内で孤立。仲間がいなくなったことで、自分で自分を傷つけるようになる。

ほかにも、恋人の無残な姿を見てしまう女性、怪物に親を奪われる子どもたち、無人の乳母車を押す母親など、みんな目の前で最愛の人を失っていく。また人ではなくても、希望や目標を見失った登場人物もいる。同作は、そうやって何かをなくしたことで現実をさまよう人々が、新しい居場所を見つける物語となっている。
『Sweet Home』の終盤は、次のシーズンに結びつく形で話を終えている。シーズン2も制作予定ということで、とにかく新作が待ち遠しい!
文/田辺ユウキ
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