千変万化の女優・山田杏奈「誰かわからないのがいいのかも」
足を踏み入れたら生きて出られないと噂され、恐れられている富士樹海を舞台に、その場所に引き寄せられる人々の姿を描いたホラー映画『樹海村』。同作で、怪奇現象に襲われる主演・天沢響を演じた山田杏奈は、主演映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020年)など、近作で名演を見せ続ける20歳だ。そんな山田に今回は、芝居の取り組み方について深く話を訊いた。
取材・文/田辺ユウキ 写真/バンリ スタイリスト/武久真理江
「すべての人に理解してもらうことは難しい」
──今回メガホンをとった清水崇監督といえば現在の日本のホラー映画を語る上では欠かせない方ですが、お仕事をご一緒されていかがでしたか。
完成した『樹海村』を観たとき、清水監督独特の色づかいとカメラワークが効いていて、おもしろいなって感じました。私はもともとホラー映画をあまり観るタイプではなかったし、この作品の出演が決まってから初めて『呪怨』シリーズや『犬鳴村』を観ました。
──テレビドラマ『世にも奇妙な物語』シリーズなどに出演はされていますけど、怖い映画を観るのは苦手とか?
いえ、細かい理由は特にないんです。「そういえば観てこなかったな」という感じで。『樹海村』に出ることになってから積極的に観るようになりました。
──山田さんは若くして膨大な量の出演作がありますが、演じるうえでの意識として、ホラーとほかの作品に違いはありましたか。
ホラー映画はより見え方を大事にしなきゃいけないなと感じました。たとえば『ジオラマボーイ・パノラマガール』だったら感情をどのように表すか、そこをまず意識していました。でも『樹海村』は「仕草、動きがどう見えるか」みたいなものが真っ先に来た気がします。
──仕草や動きですか。
清水監督ともお話をしましたが、響が実際に思っていることと、「こう動かなきゃいけない」というものの辻褄をちゃんと合わせて、動きによって恐怖が増していくように見せる必要がある。それが演じるうえでの大変さでもあり、おもしろさでもありました。
──映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』、『ミスミソウ』(2018年)、ドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(2020年)などは人間的な悩みがある役でしたが、今回は特殊で、ある種のファンタジー性がありますよね。「見えないものが見える」という。そのあたりでのリアクションの出し方は難しかったはずですが、いかがですか。
ほかの作品であれば「この人が好き」といった、誰もが思い当たる気持ちが根幹にあったりするけど、響の場合はそうではない。幼い頃から幽霊が見えているという、特殊な状況。彼女自体、人間的というよりも、何だか植物や動物的な感覚に近いのではないかと私は捉えました。響という生命体というか。
──確かにその感覚は分かりますね。
清水監督にも言われて、事前に『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年)や『ボーダー 二つの世界』(2018年)を観ていたんです。この2作から響のキャラクターを作ったわけではないのですが、感覚的な意味で近いイメージかなって。鑑賞したら確かに「なるほど」と思えるところがありました。「人間なのか?」と言われたら違うのかもしれない。ただ、「果たして何をもって人間という括りなのだろうか?」という疑問をいだきました。そういった感覚で響も演じていました。
──響に関しては、自分にしか見えないもの、聞こえないものがある。だけど、それを訴えても周囲は信じてくれない。そして隅っこに追いやられてしまう。伝えたいことがあるのに誰にも分かってもらえない経験は、誰しも心当たりがあるはず。山田さんは「分かってもらえない」と悩むことはありましたか。
私は、「すべての人に理解してもらうことは難しい」と割り切れるようになりました。むしろ最近、「こちらが求め過ぎているな」って思っちゃうんです。すべての人に「良い」と言ってもらえるものなんてない。これはネガティブな意味ではなく、あまり期待しないようになりました。いろんな人に求められたいけど、一方ですべての人に受け入れられることは無理だなって。でも、だからこそ届く人にはすごく届く。「めちゃくちゃ良かった」と深く考察して意見を言ってくれる方にも出会える。人によっての受け入れ方に差があるのはしょうがないことですよね。
──ポジティブな意味で、ということですね。
ものすごくポジティブな意味合いです。誰だって、すべての人に好かれるのは難しい。そういう人が実際にいたらすごいけど、私はそこまで聖人ではないから(笑)。
──ハハハ(笑)。
だけどさまざま作品に出演させていただき、役としていろんな人と向き合う機会があり、そのなかで酷評されることも、褒めていただけることもある。私自身にも言えることですが、作品や役を受け止める側は、それぞれ好みや主観を持っている。だからいろんな感想が生まれるわけだし、作品や役を見るおもしろさがあると思うんです。
──だけどやっぱり反応自体は気になりますか?
それはすごく気になります。エゴサとか検索もやりますし、映画のレビューサイトも見ます。でも、良い意味で真に受けないようにしています。
──すごく冷静に物事をみていらっしゃいますよね。
昔から割とそういう風に現実的な考え方だったかも。一時期は「みんなに好かれるようにならなきゃ」と思っていた部分もありました。でも、誰だって好かれることもあれば、嫌われることもある。それが人間ですよね。
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