ヤノベケンジ、映画『BOLT』に「運命的なつながり感じた」

2021.2.13 17:15

映画『BOLT』(C)林海象/ドリームキッド/レスパスビジョン

(写真15枚)

『私立探偵 濱マイク』シリーズでも知られる映画監督・林海象の7年ぶりの新作『BOLT』が2月13日より公開される。舞台は大地震に見舞われた、とある原子力発電所。圧力制御タンクのボルトが緩み、そこから流れでる高濃度の汚染水を止めるために、手動でボルトを閉めるという危険な任務に向かう男たちのドラマだ。主演は永瀬正敏。林監督は、福島第一原発の元作業員から聞いた実話から、この映画を着想したという。

10年前の原発事故の生々しい記憶を呼び覚ますような物語を、レトロフィーチャーな衣装と美術で、SF的なファンタジーのようなヴィジュアルに仕立てたのは、現代美術作家のヤノベケンジ。自ら身につけてチェルノブイリを訪問した放射能防護服の作品「アトムスーツ」は、この映画のキービジュアルとなっている。ヤノベケンジに話を訊いた。

現代美術作家・ヤノベケンジさん

──林海象監督との、コラボレーションのきっかけは?

林さんは、僕が教えている京都芸術大学の映画学科教授で、僕のように学生と一緒に映画作りをされていて、交流がありました。ずっと前からこの着想をうかがっており、実現するためにどうしたらいいか、常々、話し合ってはいたんですね。

──ヤノベさんのデビュー期の作品『イエロー・スーツ』(1991)は、美浜原発事故からインスパイアされた防護服の作品でした。それ以降も放射能について作品で扱ってきました。この映画と深い縁を感じます。

90年代から「サバイバル」をテーマに作品を作ってきて、「イエロー・スーツ」を着てチェルノブイリに行きましたから、この映画には運命的なつながりを感じました。まさか、日本であのような大きな原発事故があるとは思ってもいなかった。望んだことでも予見したことでもないのですが、自分のフィクションが、リアルなストーリーにつながってしまった。

映画の美術を引き受けたのは、現実世界の物語と自分の作品を、アートという軸だけでなくて、多様な方面から発信できるんじゃないかと思ったからです。2011年に福島第一原発で事故が起こった時、映画の中の作業員たちのように、自分自身も、命を投げ出してでも災害を食い止めたいと思った。自分の作品で、それをいかに伝えるかという思いもありました。

美術を担当したヤノベケンジによるスケッチ

──映画の美術は初めてとのことですが、深刻なドラマと、ヤノベさんの昭和の漫画的な造形センスが融合していて驚きです。特にボルトを締める作業員が手に持つ巨大なスパナは、かなりコミカルですよね。

やはり映画はフィクションですから、現実とは別の世界観を持って設計しました。たとえば、リドリー・スコットの『エイリアン』(1979)で、H・R・ギーガー(異端のスイス人画家)が、独特の世界観で宇宙船やエイリアンを造形して、いままでなかったような芸術的なSFを生みだした。それくらいのものをつくる気持ちはありましたね。

撮影セットは僕の作品を使用しながら、林監督が脚本のなかで思い描いている原子炉とか物語に必要な要素を設計していきました。もともと僕の作品はレトロな雰囲気があるので、林監督の好みとはマッチしたかな。

──ご自分のアート作品を、役者が着て感じたことは?

自分自身でも、この黄色い防護服を着てチェルノブイリに行ったりしていますから、映画にリアリティを出せるんじゃないかと期待はしていましたが、特にそれを感じたのが、永瀬正敏さんの演技ですね。

永瀬さんは実際、「作業員は、事故の時には寝てなかったんじゃないか」ということで、一睡もせずに撮影に挑まれたんです。疲労が蓄積したなかでボルトを締める演技を続けて、なかなか監督のOKが出ずに、防護服の中で酸素欠乏で倒れられた。それくらい自分を追い込んで演技していたんです。自分の作品にもうひとつ、俳優の魂がはいったような気持ちになりました。 

フォトグラファーでもある永瀬さんは、今回、北加賀屋の倉庫でセットを組んで撮影したり、イエロー・スーツに入ってた時の気持ちを写真作品で表現されたりもしています。永瀬さん、林海象監督、そして僕。三者の表現の混じり合った作品になったんじゃないでしょうか。

作品「サン・チャイルド」の前に立つ、現代美術作家・ヤノベケンジさん

 ◇ ◇

映画『BOLT』は3本のストーリーで構成される。大地震により原子力発電所でボルトが緩み、汚染水が漏れ始めた。仲間と共にボルトを締めに向かう男たちのドラマ「BOLT」。原発事故後、避難指定地域で死んだ男性の遺品整理に向かった男の直面した現実を描く「LIFE」。クリスマスの夜に自動車整備工場で暮らす男が体験する幻想的な「GOOD YEAR」。ヤノベケンジが美術を担当したのは第1話の「BOLT」のみ。

また、映画『BOLT』公開を記念し、林海象監督のデビュー作『夢見るように眠りたい』のデジタルリマスター版の上映もおこなわれる。2月6日(土)よりシネ・ヌーヴォ、2月19日(金)より出町座、順次、元町映画館にて公開。

取材・文/沢田眉香子 写真/木村正史

映画『BOLT』

2021年2月13日(土)より公開
監督・脚本:林海象
出演:永瀬正敏、佐野史郎、金山一彦、後藤ひろひと、大西信満、堀内正美、月船さらら、佐藤浩市(声の出演)
制作:東北芸術工科大学
※2021年2月13日(土)より「シネ・ヌーヴォ」(大阪)、2月26日(金)より「出町座」(京都)、順次、「元町映画館」(兵庫)で公開

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