「女の敵は女じゃない」・・・男の浮気から、女子の関係性を描く注目作

2021.3.7 17:15

兄の浮気相手を激写しようとする主人公の高城洋子を演じる笠松七海。(C)2019「おろかもの」制作チーム

(写真8枚)

「日本映画の女性像って主体性のない人がすごく多い」

──それにしても、いくら日芸で学んだとはいえ、演出、キャメラ、脚本はもちろんのこと、音声、録音がプロの仕事ですよね。インディペンデントの映画だとよく、最終的な音声調節が上手くいってなかったり、台詞と後ろの音場が乖離してたりするんですけど、そういうところが全くない。

技術面が荒くて損してる映画を沢山見てきたから、自分たちの映画は変な撮り方をしたり、音とかの技術面を舐めてたら絶対に痛い目を見ると分かっていました。

事前にしっかりとしたチームを組んで、カット替りで音声がぶつ切れになるような場所だったら、そこで撮るのを止めて、もうちょっと音が撮れる場所で撮ればいいじゃないかとか。太陽の光がずっと変わらない南向きの窓だったら照明も繋がるからそう言う場所で撮ればいいとか。

撮る前にいっぱい頑張ればポスト・プロダクションは楽になるんです。そんなしょうもないところで戦ってる場合じゃないと。僕はそこがちゃんと出来る仲間をリスペクトしてて、これまで会った後輩だったり同輩だったり、現場で会った役者だったり、七人の侍みたいに集めていたんですね。

──そもそも芳賀監督と鈴木監督の共同監督というのはどういう割り振りでやられたんですか?

実は割り振りを全くおこなってないんです。彼とはすごくDNAが近くてですね、たまに「お前、こんなの好きなの? バカじゃん!」って言われるような映画があるんですけど・・・それってシャマランの『ハプニング』なんですけどね(笑)。

──あはは、いいじゃないですか!

DVDのケース触っただけで手が腐る、ってくらい嫌いな人もいるんですけど(笑)。僕が「あれ、おもしろいよね」って鈴木に言ったときに「俺も好きなんだけど」と。考え方が似ている部分が多いんですよ。

しかも分身の術のように、僕と沼田くんもすごく似ててですね、三人でよく言うんですけど「心ひとつで、身体三つみたいだよね」って。まあ、沼田くんと鈴木は全く似てないんですけど(笑)。でもバスケットボールでいうと、ノールックでパスしてキャッチしてシュートみたいな、そういう以心伝心できる関係だったんです。

──なんでも『ターミネーター』が大好きだってことですが、それはどちらなんですか?

それは僕ら二人とも大好きです。特に「2」。シュワルツェネッガーだったり、ジョン・コナーだったり、T−1000だったりが役割をしっかり務めつつ、キャメラは躍動的に無茶苦茶動いてるんだけど黒子に徹してるような感じで、気がついたら前のめりに見ている、というようなエンタテインメントは無視できないです。

兄の浮気相手と不思議な関係性を築きあげていく。(C)2019「おろかもの」制作チーム

──ほおほお、分かります。

この『おろかもの』という作品もエンタテインメントとして撮りたいなと。もしサスペンスもコメディも無しにして、人々のどろどろの部分だけを描いてしまうと、すごく観る人を選んでしまう。

自分の人生をそのまま映画にするジャン・ユスターシュの映画みたいなものも好きなんですが、こういう痛みも沢山あるんだよということを、エンタテインメントとして楽しませながら多くの人に伝えたいと思ったんですね。だから『ターミネーター2』をバイブルに、ジョン・カサヴェテスみたいな映画を作ろうと(笑)。

──とにかく洋子(笠松七海)が積極的に行動を起こす役ですよね。兄の愛人である美沙(村田唯)にカフェに直談判に行くところの追跡のシーンとか、激しくアクション性があります。

やっぱり主体性というのは映画には絶対必要なものだなと思って。日本映画の女性像って主体性のない人がすごく多いというか、マリオでいうところのピーチ姫のように、守られる存在の映画っていまだに結構多くて。

むしろ『マッド・マックス 怒りのデスロード』のように、全員が行動してひとり一人勝手に動いていくところに絶対にカタルシスがあるんで、僕はそういうのが見たいと思うんですね。

人形みたいなキャラクターはひとりも描きたくない。みんなそれぞれいろんなことを考えていて、行動していくというのが人間だなと思うんです。

『おろかもの』

監督:芳賀俊、鈴木祥 
脚本:沼田真隆
出演:笠松七海、村田唯、イワゴウサトシ、猫目はち、葉媚、ほか
配給:MAP+Cinemago
(C)2019「おろかもの」制作チーム

関西の映画館:京都みなみ会館(3月12日〜)、シネ・ヌーヴォ(3月13日〜)、神戸アートビレッジセンター(4月17日〜)

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