今泉力哉監督「これからって役者さんばかりだった」
「距離感は、勝手になるようになるって思ってます」
──それはともかく、『街の上で』は青くんにこれだけの女性が絡んでくるのに、ま、雪は別として、ロメール映画みたいに肉体関係になったりしないっていう。性欲が薄い草食系では決してないしね、彼は。
そのへんは俺の温度かもしれないですね。でも、その空気とか期待だけはみんな持っていたりする。青もずっと別れた雪のことを引きずってるけど、どこか淡い期待みたいなのは持っていて。けれど、雪以外の女性といざそういうことになったら雪のことを思って自分から断るかもしれない。
──長回しシーンになる前の、イハの部屋で白い布を広げるという謎な時間も、なんかドキドキするんですよね。
クランクイン前の脚本には確かなかったシーンです。そんななか、撮影中に差し込みの脚本を書いて。「ちょっとでっかい白い布、用意してもらっていいですか? シーツ、2、3枚くらいの大きさの」って美術部にお願いしたら用意してくれました。
「え? 意味が分からない」と言われてもおかしくないのに。あれ、説明のしようもないし。ただ布を広げたかっただけ。
──テーブルの上で広げたときに、青が「お茶、危ない!」って(笑)。
撮影前の段取りのときに若葉さんがそれ言ったんですよ。めっちゃリアルだし、言葉も面白いと思ったので、イハに「あ、実際もお茶の上なんで」って台詞を俺が足しました。
高橋町子(萩原みのり)が監督してる映画って、喫茶店で本を読んでるシーン以外どんなのか分からないですけど、なんかあの喫茶店でデカい布が広げられる時間があるんだなと。お茶やコーヒーの上で(笑)。
──でもテーブルを隔てて2人がばっと白い布を広げるってのは、その後のセクシャルな時間を予感はさせるんですよね。
試写で見てくれたはるな愛さんが、「あの2人がセックスするかどうかは分からないけど、距離が一番近づける瞬間はあの布だったじゃん!」っておっしゃってて。「布広げたのになんもないんかい!」って(笑)。
──分かる、とっても分かる。そのあとあれだけ赤裸々な恋バナをするわけですし。
だからそれも、嫉妬とか恋愛感情がないから話せる距離もある。近づくと話せなくなる・・・みたいなのは自分の経験でもありますね。なんか分かんないんですよね、俺も。イハはどういう気持ちだったのかなぁとか。
どのタイミングで恋愛感情とか、友人の距離が詰まってるのかとかは役者にも言ってないですし、勝手になるようになるって思ってます。
──今泉さんの映画って、そのあたりをはっきりさせないのが通常運転ですもんね。
そうです。答えはないですね。俺も驚きたいし。
──青のほうも「好きでもない異性とは恋人関係に普通なんないでしょう」なんて言っちゃう人ですからね(笑)。
恋愛経験を極端に少なくしたんで。雪が初めての彼女くらいの勢いにしてるので、そこのリアリズムは保ててるかなと。
──そうなんですよね。雪にフラれた日のケーキをまだ冷蔵庫に残してるようなやつだから。
あれもね、脚本にはもともとなくて、結構撮影が始まってから差し込みました。助監督はみんな男性だったんですけど、2度目のケーキのシーン、みんなあんまり理解してくれなくて(笑)。これのどこがぐっとくるのか分からないと言われて、「絶対大丈夫」って言って撮ったんですけど。
──でも去年初めて拝見させていただいたときの僕のメモを改めて見たんですけど、フラれるところで「あ、このケーキどうすんのかな?」って書いてる。で、あとから出てきて「ほら。やっぱり」って(笑)。
ホントですか? それはすごい。さすがです。
──青って、ライヴハウスの謎の女からもらったメンソール煙草をずっと吸わずにPCの前に残しているわけですよね。もらった、といってもまったくの他人から彼女がもらい煙草したものを押し付けられたような感じですが、あ、やっぱそんな男なのね、って(笑)。
この映画のラストシーンを、実はもうひとつ現場で書いていて。結局、今のラストが撮れて「あ、これはもうバッチリ」ってなったから撮らなかったんですけど。
その幻のラストって、あの煙草を雪が見つけて、青が「実はよく知らない女の人からもらって。いや、女の人じゃなくて男の人からもらって。いや、違うな、男の人から女の人がもらって、それをもらって」って本当のことを言うだけなのに、しどろもどろになって、雪から「いいよ、嘘つかなくて」と言われるっていう。
映画を見てる人は事実を知ってるから、青は嘘をついていないのが分かるけど、雪は「そんなこと起きないから。何嘘ついてるの」みたいな感じで揉めるっていう。
──ちょっと青には女難の相がありますね(笑)。その前のシーンで、映画の披露上映のあと、イハが青の店に訪れて秋波を送るというか、明らかに「好きよ」と言う空気を流してみせるというのもありますしね。
そうですね。あれも脚本に明確に書かれていたわけじゃなくて。目線を送るか送らないかだけじゃないですか。最後、分かりやすく目線を送ってるけど。なんかどんどん現場の感覚でやってましたね。
「映画に出てましたよ」とか言っちゃう。謎の意味深感。あのシーンの台詞のやりとりがオンじゃなく裏なの、けっこうこだわってやってますね。しゃべってる人じゃなく聞いてる人、リアクション側でみせていく。
そうすると感情が立ち上がるんですよね。まあ、イハに限らず、男女の距離感はみんなあやふやにしてました。
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