元宝塚雪組トップスター・杜けあき「男役のときの歌は私の宝」

2021.5.30 08:30

「もはやこれで、思い残すことはござらん!」(『忠臣蔵』)という名台詞を残し、鮮やかに宝塚歌劇団を去った杜けあきが久しぶりに代表曲を披露する

(写真3枚)

平成の始まりと共に雪組トップスターに就任し、旧宝塚大劇場の最終公演となった『忠臣蔵』(1992年〜1993年)で宝塚歌劇団を卒業した杜けあき。現在女優として幅広く活躍する彼女が、「宝塚のモーツァルト」と謳われた作曲家・寺田瀧雄のメロディを歌い継ぐ、『寺田瀧雄 没後20年メモリアルコンサート All His Dreams“愛”』(6月26日開幕)に出演する。

下級生の頃から指導を受けた寺田氏との思い出や、歌との新たな向き合い方、ホームページや著書で披露している「愛言葉」についてなど、リモートインタビューで訊いた。

取材・文/小野寺亜紀 撮影/岩田えり

「ロマンティックな『寺田メロディ』に、心をわしづかみにされる」

──寺田瀧雄先生は『ノバ・ボサ・ノバ』『ベルサイユのばら』など数々の作品で、約3000曲もの名曲を残されました。先生の没後20年メモリアルコンサートへのご出演を前にした、いまの心境は?

このコンサートは2020年上演の予定でしたが延期になり、開催できるのだろうかと不安になる日々もありましたが、タカラジェンヌは運の強い人が多いので、今年こそはと信じています!

あらためて寺田先生の数々の名曲と向き合い、素晴らしい先生だったのだなと実感すると同時に、心から寂しくなりました。もし生きてらっしゃったら、5000曲、6000曲という名曲が生まれたのだろうなって。本当にどの曲も素晴らしいです。

──2000年の3月におこなわれた寺田先生の作曲家40周年記念コンサートの際には、杜さんもご出演され、先生はステージ上で音楽指揮をされていましたね。

そうです、あの年の7月にお亡くなりになられたんですよね・・・。私が現役のときも、先生自ら指揮を振ってくださることがたくさんありました。

私たちの時代の『TMP音楽祭』(現在の「タカラヅカスペシャル」)もそうですし、ディナーショーや先生のコンサートなど大小問わず色々な場で。そのたびに、先生がどれだけ曲を愛し、私たちタカラジェンヌを大切にしてくださっているかを感じました。

──特に思い出されることはありますか?

実は今回のコンサートで、眞帆志ぶきさんが歌われた「愛!」という曲を、安奈淳さん、剣幸さんと3人で歌わせていただくのですが、ちょうど卒業前の最後の『TMP音楽祭』で、「愛!」をソロで歌ったんです。

そのときも寺田先生がステージで指揮を振っていらしたのですが、最近「タカラヅカ・スカイ・ステージ」でその映像を偶然観て、もう鳥肌が立ちました。先生が私の息遣いや曲の雰囲気を最大限に活かしながら振ってくださっているのが分かって、震えるほど感動したんです。あらためてそういうのを思い出しますね。

──寺田先生のメロディが杜さんの包容力ある男役像など、いろんなものを引き出されていたように感じますが、あらためて寺田先生が生み出すメロディの魅力とは?

確かに寺田先生は、作曲をしていると主役の生徒の顔が出てくると言っていました。「カリンチョ(杜)の顔とともに、曲が降ってきた! 3分で創った!」と持ってきてくださった曲もありましたが、それが驚くぐらい名曲だったりするわけですよ!

先生は「天才」と呼ばれるのは好きではなく、自分のことを「職人」と仰っていましたが、それは努力を重ねて作曲していたからだと思います。

宝塚の舞台はお芝居もショーもあり、和洋ジャンルを問わないですし、まして女が男を演じる世界ですから大変な作業が多かったはず。でも今回のコンサートの楽曲を見渡しても、同じテイストのものが全くないんですよ。

ショーの曲も独特の世界観があって、「寺田メロディ」と言えるような、非常にときめくロマンティックな要素が、ポンポンと出てくるので心をわしづかみにされます。先生はやっぱり天才、と思いますね。

──今回のコンサートは、第1部がショー作品、第2部は寺田先生と縁の深い演出家の植田紳爾さん、柴田侑宏さんの作品の曲を日替わりで届けられるとのことで、杜さんは「愛!」以外にどんな曲を歌われますか?

ショーの方では、私がトップだったときの「パラダイス・トロピカーナ」や「スイート・タイフーン」を。お芝居の曲からは、源義経を演じた『この恋は雲の涯まで』の主題歌、『忠臣蔵』の「花に散り雪に散り」を歌わせていただきます。そして私が入団する前の歌、「僕は君」も歌う機会をいただきました。

──「花に散り雪に散り」は、杜さんの卒業公演に寺田先生が書き下ろされた名曲で、旧宝塚大劇場を包み込むような深い歌声がとても心に残っています。杜さんにとってはどのような1曲なのでしょうか。

ひと言で言ったら「集大成の曲」ですね。卒業という意味でも、私が演じた大石内蔵助はじめ赤穂四十七士が本懐を遂げたという意味でも──。

全員で歌うときの充実感はもちろん、ひとりで歌うときは男としての大きな決意、内に秘めた強さ、ナイーブさ、いろんなものを意識していましたが、それらを寺田先生の音楽が細やかに表現されていたなと思います。

29人の宝塚OGと、宝塚歌劇団専科の轟悠が日替わりで出演する『寺田瀧雄 没後20年メモリアルコンサート All His Dreams“愛”』

──今回のコンサートではたくさんの宝塚OGの方と共演されますが、何か楽しみにされていることはありますか?

私が宝塚にあこがれ、入団するきっかけとなった初演の『ベルサイユのばら』に出演された方々が、当時の歌を歌ってくださるので私自身もファン時代に戻ったような気持ちになります。

それに私も結構歳を重ねてきたけれど、まだまだ自分が下級生だと思えることが素敵だなと。そういう気持ちをいつまでも忘れないでいられるのが宝塚の良さでもあるし、100年以上の伝統や誇りをこういうコンサートで感じられるのがうれしいです。

──現役生としては専科の轟悠さんがご出演(大阪公演のみ)されます。轟さんは新人公演で杜さんのお役をされるなど、在団時からご縁がありますね。

そう、とても懐かしいです! とうとう宝塚を卒業されると聞いて本当に寂しいけれど、よく頑張ったトドちゃん(轟)に心からの拍手を送りたいです。

宝塚は素晴らしい世界だと、離れてみてますます宝塚の良さが分かったり、また卒業後の生活の素晴らしさも感じたりするので、「これからも楽しいことがたくさんあるよ! 頑張れ!」と伝えたいです。

『寺田瀧雄 没後20年メモリアルコンサート All His Dreams“愛”』

日程:6月26日(土)~27日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール(大阪市北区茶屋町19-1)
料金:S席12000円、A席8000円、B席5000円
チケットは6月5日(土)発売
電話:06-6377-3800(梅田芸術劇場)

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