森見登美彦、自著『夜は短し』舞台化に「原作も工夫しとけば…」

2021.6.5 09:15

『夜は短し歩けよ乙女』原作者の森見登美彦 写真提供/KADOKAWA

(写真3枚)

「小さな風呂敷で勝負するのが好きなのは、同じなのかも」

──上田さんは、ヨーロッパ企画の舞台でも、いろんな要素から伏線になりそうなことを拾い上げて、再構成することにかなり長けてます。それが森見さんの自由でファンタジックな世界と組み合わさったときに、すごい相乗効果になるんじゃないかと。

一番大きな特徴は、そこですよね。僕はその場のノリとか勢いを、文章に活かす方が合ってるので、逆に伏線を考えたり、つじつまを合わせるのが苦手なんです。『夜は短し』も、事前にキャラ設定や流れをあまり考えず、先輩が乙女をどういう風に語り、乙女がどういう行動を取るか? というニュアンスをとにかく積み重ねていくことで、だんだんと外堀を埋めていく・・・というやり方でした。

──展開がまったく読めないのは、実は作者も先のことをまったく決めてなかったからだったんですね。

『夜は短し』は、特にそういう書き方をしていましたね。そんな行き当りばったりの乱暴な話に、上田さんは見やすいような波を作ったり、原作ではつながってなかった所をつなげたりと、毎回いろいろ工夫をされるんです。だから脚本を読むと、本当に「ああ、原作ももうちょっと工夫しときゃよかった」って思います(笑)。

──でも逆に(ヨーロッパ企画の舞台と森見自身の作品をマッシュアップした)『四畳半タイムマシンブルース』は、原作舞台では希薄だった恋愛要素に焦点を当てることで、舞台版にはなかった勢いを付けるという、森見さんの得意技が生きた作品だったと思います。

やっぱり「いつか小説の強みを生かした形で、舞台を小説化したい」とは、ずっと考えていたんです。僕の場合、主人公がどういう風に行動して、どう変わっていくか? に重点を置かないと小説にならない。となると、タイムマシンと主人公の恋の行方が密接に絡んでいく流れにしないと、小説にする面白さが半減するんです。だから舞台版より、主人公と(恋する相手の)明石さんのお話の側面が、すごく強い話になりました。

──まさに「原作の雰囲気を壊さないまま、自己流にアレンジする」作業の、見事なアンサーとなる作品でしたが、お2人のこの相性の良さは、やはり表現者としてなにか共通項があるからでしょうか?

実は全然違うタイプの作家なのに、最終的にでき上がるものの雰囲気は、なぜか似てしまいますよね。その理由については、僕もいろいろ考えたりするんですけど、なかなか難しい。

──私もお2人の具体的な共通点を、取材直前までずっと考えてましたが、やっぱり明確な答えが出なかったです。

上田さんはSF的だったり、構成の巧さの方にやりたいことが寄っている感じがするけど、僕は僕でファンタジーや文章の勢いみたいな所に寄っている。それでも最終的にでき上がった作品のカラッとした感じや、ユーモアとか温かみとかが「似てるなあ」と思うんですよね。でも、あまり大風呂敷を広げすぎないというか、小さな風呂敷で勝負するのが好きなのは、もしかしたら同じかもしれない。

「今回の舞台は、上田さんと僕のお付き合いの一区切りみたいなものになるのでは」と語った森見 写真提供/KADOKAWA

──そう言われるとお2人とも、選ぶテーマは非現実的でも、物語の世界は私たちの日常から離れすぎないという印象を受けます。

そうですね、そこはすごく感じます。僕がよく大学生のときに考えていたのは、なにか不思議な出来事や、面白いドラマがあったとしても、自分が普段歩き回ってる範囲で起こってくれないとつまんないなあ、ということ。だから小説も、そういう書き方をすることが多いです。上田さんも結構、はじまりはSF的な発想で、すごく変わったアイディアだとしても、使う素材は絶対日常から持ってくるじゃないですか?

──大学の部室とか、普通のカフェとか、全然SF臭がしない場所を舞台にするケースが、圧倒的に多いですね。

だから未来の世界を描いていても、我々の日常からすぐ歩いていけるような未来、という感じがする。それは上田さんの好みでもあるだろうけど、結構意図的に、大風呂敷を広げないようにやっているという感じが、すごくしますね。

──だとすれば、なにげない大学生活のなかで、ファンタジーがポコポコと発生する『夜は短し』は、まさにお2人の作家的な嗜好が合致した世界ではないかと。

でもこの作品に関しては、もはや上田さんの方が絶対に詳しいです。やっぱり書いた方は忘れてしまうし、自分の小説を読み返すことも、そんなにないので。だけど上田さんは何回も何回も読み返して、今に至ってますからね。そういう意味で今回の舞台は、上田さんの『夜は短し』とのお付き合いの集大成であり、それはある種、上田さんと僕のお付き合いの一区切りみたいなものになるんじゃないでしょうか。

──小説家の万城目学さんが名付けたお2人の関係、「フィクション永久機関」のターニングポイントになる、という予感が。

ずっとキャッチボールみたいに(お互いの作品を)やってましたからね(笑)。とはいえ今後も、僕の小説を別の形にしてもらったり、僕の方も上田さんの作品を小説にしてみたいと思います。『夜は短し』は無茶な原作なので、若干「大丈夫なんかな?」とハラハラしてますが・・・、特に「詭弁踊り」を、舞台でどう表現するのかと。でもきっと上田さんなら、オモチロイ舞台にしてくれると思うし、ぜひ成功してほしいです。

【舞台『夜は短し歩けよ乙女』】6月6日~ 22日は「新国立劇場 中劇場」(東京都渋谷区)、6月26日・27日は「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」(大阪市中央区)にて上演。チケットは一般9800円ほか、現在発売中。

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