金子大地と石川瑠華主演作「互いの良さが引き出された」
「ファッションは、映画を楽しむ上で大事な要素のひとつ」
──それにしてもこの映画、隙がない。それにちょっと驚きますね。
拙い表現だけど勢いと情熱だけで作って、観る人間に一種の高揚感のようなものを抱かせる映画を僕は否定しないんです。全然アリだと思う。だけどそれって観たときのテンションとか、時代とかで単純に拙いものに成り下がってしまうことがあると僕は思うんですよ。
僕のフィロソフィーというか、映画を作る上では気持ちだけじゃなくて、技術的に優れたもの、及第点に達していないといけないというのがあって。だから隙がないと仰っていただいたのはすごくうれしくて、技術的な部分で減点されないようにしたいという思いはそもそも最初からスタッフみんなと話していたんですね。
──うんうん、それは作品が証明している。
撮影期間は2週間で、予算が3000万円という低予算で時間がないながらも、東條政利さんというベテランのチーフ助監督さんがすごく良いスケジュールを考えてくれた。そして、実はユカがぼったくり俳優スクールでふざけた授業される教師が彼です(笑)。
──あはは、そうなんだ。でもロケ地もそんなに多岐に広がっているわけではないですもんね。久子との浜辺のシーンくらいで。しかも撮影後、二人で座ってしゃべるところも素晴らしいシーンになってますもんね。マジックアワーの空で。
あれ、いい時間に撮れたんですよね。いちおう予備日は設けてたんですけど。それに、ユカと小山田が仲良くなっていくシーンはいい光で撮りたいな、とか。
──あそこは、この映画がまだ素晴らしい恋愛映画かなと思わせるところですからね(笑)。
そうそう。そうなんです。どうやったら胸キュン映画みたいにできるのかって。キラキラ映画観ましたね(笑)。これはやりすぎかぁとか思いながら。
──あそこはそう思わさないといけないし、クリシェになりかけのギリギリのところで止まってるのがいいのよね。話変わりますけど、やたら気になって仕方ないのがユカと小山田のTシャツなんですよ。
ありがとうございます(笑)。
──まぁ、ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のTシャツは、話にも関わってくる小道具のひとつとしても、一般的な奴じゃないんだよねえ(笑)。
僭越ながら言わせてもらいますけど、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』はオリジナルの太字のやつじゃなくて、あのデザインが断然カッコいい。声を大にして言いたい(笑)。
──あと、びっくりしたのが『エイフェックス・ツイン・ピークス』ですね(ミュージシャンのエイフェックス・ツインと、デイヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』をモチーフに作られたもの)。あれ、ありましたよね、本当に。
ふざけたTシャツですよね。オーストラリア人のよく分からない奴が作ったやつ。普通に通販で売ってるんですけど。小山田は結構お洒落なやつで、ジーパンはリーバイス501の1890年代のモデルなんです。もちろんレプリカなんですけど。
シューズはオニツカタイガーのメキシコオリンピックの時のモデルを履いてる。腕につけてるGショックのベルトも、ジェイムズ・ボンドが、ロレックスとかオメガにつけてるナイロンのベルトに替えてるんですよね。小山田はちょっとそういう拘りがある、って細かいところをスタイリストのJOEさんと一緒にキャッキャ言いながら楽しくやってました。ぜんぜんそれが映ってるわけじゃないんですけど(笑)。
──そこまでは僕にはさすがに分からない(笑)
小山田はフリーランスで仕事をしてるので、いろんな人に覚えてもらうようにしなきゃいけないというのがあるんですよ。だから金髪にしてるし、映画とかカルチャーとか、それに関わってる人ってTシャツで話が拡がりがちじゃないですか。それを小山田はキャラクターとしてそういうのを見つけた、というのもあるんです。それにたまたま、ユカが気付いたんですもんね。うれしかったと思いますよ。
──ファーストサイトでね。でも反対に、ユカが着てるのは「テクニクス」とか、ぜんぜん関係ない。
ユカは単純に友達にもらったりとか、なんだかよく分からないけどかわいいから着ている。ユカがわりと好んできている着こなしはロングスカートにTシャツなんですけど、あれって実はライバル的存在の久子がよくやるスタイルなんですよね。彼女と出会ってから無意識に真似してる。
物事を結構受け売りしていくユカだけど、実は着ている洋服もそうしたプロセスがあるというか。あと、小山田が告白するときにユカが着てる青いシャツですけど、あれを彼氏の良平(栁俊太郎)が着ているシーンがあるんですよ。あれは彼氏の服なんです。
──いや、たいしたこだわりですね。
で、第三章で小山田の仕事が多少軌道に乗ってきてからは微妙にスタイリング変えてます。元々古着のGパン履いていたのが黒いストレートのパンツになっていたりとか、スニーカーも当時ミズノがファッション業界で流行っていたんですね。それの真っ白な新品になっていたりとか、そう言う衣装の変化。そういう楽しみ方もある映画になってるんじゃないですかね。
──それ知ったあとだとリピーターが増えるんじゃないですか(笑)。
そういう楽しみ方はあるなと思いますね。なんか映画のなかの衣装とかTシャツとかって大事だと思ってるので。『トレインスポッティング』ってどんな映画だったっけ、って思いながらユアン・マクレガーのあの服はちゃんと覚えてる。
それは映画を楽しむ上で結構大事な部分、大事な要素のひとつ、あんまり蔑ろにしてはいけない部分だと思ってるんです。特に今回はファッション業界とか、エンタメ業界をちょっと描いてはいるので、逆にそこのディテール感は気にしながらやっていましたね。
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