ブレイク必至・円井わん、主演映画で「自分の鬱憤が芝居に」
円井わん(まるいわん)。このユニークな名前は覚えておいた方が良いだろう。『ソワレ』(2020年)の芋生悠、『猿楽町で会いましょう』(2021年)の石川瑠華らとともに、これからの日本の映画界を担う若手俳優のひとりだ。
そんな円井の初主演映画『コントラ』が6月5日より、彼女の地元・大阪でも公開される。彼女が扮する主人公・ソラが、祖父の遺品である第二次世界大戦時の日記の謎を追いかける物語。メガホンをとったのは、日本を拠点に活動するインド出身監督、アンシュル・チョウハンだ。
「自分と近いところがあった」と話す円井に、今回の見事な芝居について話を訊いた。
取材・文/田辺ユウキ
「以前から、芝居オタクな気質があるんです」
──この映画は冒頭から見入りました。ソラが自転車をこいでいたらチェーンが外れてしまう。で、イラついて道路下の河原に自転車を投げ捨て、また拾いに行く。その一連の動作でソラの現状、性格、この先に待ち受ける運命が伝わってくる。この芝居で「円井わんはすごい」と一気に惚れ込みました。
『コントラ』に出て、自分の芝居の軸ががっちり固まった気がします。私は以前から芝居オタクな気質があって。いろんな作品を観て「なぜこういう芝居になるんだろう」と解析をよくしていたんです。
だけどいざ自分が芝居をやるようになり、私のなかでの正解になかなかたどりつけていない気がしていました。ただ『コントラ』では、芝居の面でアンシュル監督と私の考えが合致する点が多かった。ちゃんと認めてもらえて、「自分がやってきたことや考えは間違っていないんだ」と自信につながったんです。
──良い意味で円井さんの頑固さを感じる芝居でした。
頑固なところはあるかもしれません。今はそうでもないんですけど、これまでは別現場でも「もっと大きく芝居をして欲しいだろうな」と気づいていながら、結構、無視しちゃったりして(笑)。
──ハハハ(笑)。この映画で円井さんの何がすごかったかって、不機嫌な態度なんですよね。芝居的に魅せているんだけど、かといって取ってつけた部分は一切ない。円井わん本人の腹の底にあるイライラが漏れ出て、それを芝居に変換している感じです。
実はもともと私は、すぐ不機嫌になっちゃうタイプでした。今はかなり丸くなりましたけど。10代の頃は常にイライラしていて、特に中学生のときはそれがはっきり顔にもあらわれていた。
お母さんにも「イライラを顔に出すのはやめなさい」と注意されたりして。「でも出るものは仕方ないじゃん」とそのまま突き通していたんです。その結果、社会、自分などに対しての鬱憤が芝居として出てくるようになってきました。
──撮影当時も何かに苛立っていたんじゃないですか。
現場でも平穏な状態ではなかったかも。監督と考えが合致するところもあれば、うまくディスカッションできないときもあって。それはお互い、役について深く追求していたからなんですけど。
監督が思い描く世界観についていけなくて、「いや、そんなことを言われても分からない」という感覚もありました。精神面、肉体面な疲れも重なって、ずっと限界を感じながら演技をしていたんです。
──ソラは円井さんをアテ書きしている気もしました。というのもこの映画は円や丸がたくさん出てくる。途中で登場する後ろ向きで歩く男は時々ぐるぐる回るし、ヤン・シュヴァンクマイエル監督『オテサーネク』(2000年)を連想する場面では目玉焼きという丸状の食べ物が出てくる。自転車の車輪も丸い。「円井わん」という名前から連想させるものが散りばめられている。
確かに! 監督からは「女子高生のキャラクターを主人公に話を書いていたら段々、ソラが円井わんに見えてきた。そこから円井わんに重ねて人物像を膨らませていった」と言われました。
──丸や円ってルーティン、規則性の象徴でもありますが、ソラはそれをつぶしたり、あえて踏み外したりします。人に逆らって生きる。「コントラ(=逆)」というタイトルにも結びつきますが。
私も実際、近いところがあるみたいで。親が言うにはずっと怒っていたり、ものを投げたり、無意識なんですけどそういうことをやっていたらしいんです。
──自転車を停めるときも、スタンドを使って立てかけるのではなく、地面に放り投げるように置いていくんですよね。
あれは監督の演出なんですけど、でも親から「よく自転車を倒して置いて、どこかに行っていた」と言われました。私はそれが全然思い出せない。当たり前のようにやっていたから。だからソラのそういう行動が特殊に感じないんです。単純に演じるという部分では、かなりやり易さがありました。
『コントラ』
監督:アンシュル・チョウハン
出演:円井わん、間瀬英正、山田太一、ほか
配給:ラリーライクフィルムズ+Cinemaangel
(C)Kowatanda Films
関西の映画館:シネ・ヌーヴォ(6月5日〜)、元町映画館(近日公開)、出町座(近日公開)
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