気鋭の監督・横浜聡子、初めて描く家族愛は「母親にも伝わってました」

2021.6.30 19:30

主人公・いとを演じた駒井蓮(左)、横浜聡子監督

(写真9枚)

横浜監督「『いと』という姿を借りてやらせてもらう」

──越谷オサムさんの原作はもちろんあるわけだけど、あえて今、家族に取り組もうとされた動機みたいなものはありますか?

横浜:家族って分からないんですよ。苦手なんですよね、描くのが。やったことないので、ある意味私にとっては真面目にやらなければいけないものなのかなと。原作のように家族のメンバーと心の内側がぶつかり合うというか、そうしたものから逃げてきたので、「いと」という姿を借りてやらせてもらおうかなという感じでしたかね。

──うん、僕も家族ってものを全肯定するのはとても恥ずかしい(笑)。

横浜:そう、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいですけどね。(いとと父が)喧嘩するシーンとかも、この映画のなかでここまでの台詞は言わせなければならないけど、これ以上は無理だ、という線引きが自分のなかでどこかあって。

駒井:私も分かります。私も親とは全ては解り合えないと思っているので。親とか家族への愛はもちろんあるんですけど、他人だぞと思ってるところがあって。家族という血の繋がりはあるけど、自分の考えていることがイコールで伝わることはたぶんないかなと。だから、いとの喧嘩シーンを演じてたときも、言葉では表現できないものがあるっていうのをすごく感じた撮影でした。

──お父さんは「お前、言葉使うの苦手だから」と常に言ってるみたいなんだけど、あそこは言葉で言い返すとかね。

駒井:楽しかったです(笑)。勝手に怒ってるんですよ、私。

家族の中で唯一の東京出身であり、学者の耕一を演じる豊川悦司 (C)2021「いとみち」製作委員会

──でもあの父娘、仲良いよね。

駒井:メチャクチャ仲良いです。けど、何だろう・・・、この人が好きだからって気持ちだけで、全部が解り合えるとは限らないじゃないですか。私もお父さんもお母さん大好きだけど、その人の全部は解らないし、反論することはいっぱいあるし。それって好きだからでは消せない反応だと思っているので。だから結構ぶつかったんですけど。

横浜:ぶつかるだけすごいよね。それを言う勇気も私にはないし。すみません(笑)。

──そういうところが活きてるわけだ、あのシーンに。でも、父娘がぶつかって、お父さんも一緒に家出する、っていうのが可笑しいんですよね。

駒井:似てるからこそぶつかり合うっていう。

──そもそも横浜監督の作品は、初期の『ジャーマン+雨』とか『ウルトラミラクルラブストーリー』とか、バキバキに尖ったコメディの印象が強いんですよね。でも今回、「そうじゃない」横浜映画の、今のところの代表作になったことは間違いないと思うんです。

横浜:「尖ってないバージョン」の(笑)。ありがとうございます。母親が見に来てくれて、今までの自分の映画には首をかしげてたんですけど、「聡子、やっと今回のは判ったよ、良かったよ」って。なんか伝わってました。

映画『いとみち』

全国の劇場で公開中
監督:横浜聡子
出演:駒井蓮、豊川悦司、黒川芽以 ほか
配給:アークエンタテインメント

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