パンダライターに訊く、双子誕生はシャンシャンブームを超えるのか
「上野動物園」(東京都台東区)のメスのジャイアントパンダ「シンシン(真真)」が6月23日、双子の赤ちゃんを出産。ジャイアントパンダ(以下「パンダ」)の繁殖は難しく、しかも同動物園で双子が生まれるのは初めてとあって、コロナ禍での明るいニュースは2017年の「シャンシャン(香香)」誕生以来のパンダブームを巻き起こしそうだ。
どんなブームが予測されるか、またパンダを見るときの楽しみ方などを、「パンダライター」としてメディアに連載も持つ二木繁美さんに聞いた。
取材・文/合楽仁美 動画提供/(公財)東京動物園協会
「2頭は順調に成長、まずは一安心」
シンシンの出産は、現在4歳になるシャンシャンが生まれた2017年6月以来、4年ぶり。ことし3月にオスの「リーリー(力力)」と交尾したことが発表され出産は期待されていたが、生まれたのが双子で驚いたファンも多い。
「パンダが双子で生まれる確率は約45%と、それ自体は珍しい事ではありません。ただ双子の場合、1頭が極端に小さいことも多いんです。今回は最初の測定時の体重が124g、146gと2頭とも体重が100グラムを超えていたので、まずホッとしました」と二木さん。
パンダは、大人の体重が100kgを超えるにもかかわらず、赤ちゃんは100~200gと小さく生まれてくる。生後1週間以内に死んでしまうことも少なくないため、生まれて7日目までは「魔の1週間」とも呼ばれている。
実際に、シンシンが2012年に出産した子は生後6日で、神戸の王子動物園の「タンタン(旦旦)」が2008年に出産した子は生後3日で死んでしまったため、二木さんの安堵もうなずける。
今回の双子パンダで二木さんが興味深く注目したのが、2頭を見分けるために1頭の背中につけられた緑色のマーカー。イラストレーターでもある二木さんは双子パンダのイラストを描き、セリフをアテレコしたものをツイッターに掲載。緑色の印を「昇り龍みたい」と表現した。
「和歌山のアドベンチャーワールドで双子パンダが生まれたときは、1頭のお尻あたりに、青い丸印をつけていたのを見たことがあるんですが、あそこまで体全体にしっかり塗られているのを見るのは初めてです」(二木さん)
しかしその「昇り龍」、お母さんパンダのシンシンが赤ちゃんの体を舐めるので、写真が発表されるたびに薄くなっていき、生後13日の写真では、ほぼ消えてしまっていた。
二木さんのイラストのなかでも、双子パンダが「昇り龍、消えてもうた~!」「お母ちゃんペロペロしすぎやねん!」と話している。ちなみに、東京のパンダなのに関西弁なのは「脳内で、関西弁で再生されてしまって」(二木さん)とのこと。表情がどこか「ビリケンさん」に似ているのも、関西人には親しみやすい。
「シャンシャンブームを超えるか」
2017年に「シャンシャン」が生まれたときの祝福ムードを覚えている方も多いだろう。上野動物園では1988年以来の無事に成長した子パンダとあって、そのブームは凄まじいものだった。
当時のブームについて二木さんは、「生後半年くらいから一般公開が始まったんですが、当初、母子の観覧は抽選制で、1日約400組(1組5名まで)限定でした。たとえ観覧券が取れても、母子を観覧できるのは、1人1〜2分程度。生まれる前は、両親のリーリーとシンシンを好きなだけ眺められる時期もあったんですけどね・・・。東京で子パンダを見られること自体が貴重だから、余計に盛り上がったのかもしれません」と話す。
また、ブームによって、特色あるグッズも多数登場した。パンダといえば「白黒のモフモフ」だが、赤ちゃんパンダはピンク色で、毛の薄い状態で生まれてくる。その「パンダらしくない」見た目を、あえてぬいぐるみにしたのだ。しかも、生後2日目と10日目のシャンシャンとほぼ同じ重さと大きさで。その名も「ほんとの大きさパンダの仔」。
「このぬいぐるみは、今回の双子パンダの保育器に置かれていることでも、話題になりました。加えて、飼育員さんが体長を測るのに使っていたものを模した、黄色いメジャーテープも別売りで発売されていましたね。それでぬいぐるみを測って遊ぶんです」(二木さん)。買った人はパンダ飼育員の気持ちを、少しは味わえたのだろうか。
6月で4歳になったが、大きくなっても人気は衰えない。今春には、「シャンシャンが食べ残した竹」や成長の様子を記したDVD、写真を特典に付けたぬいぐるみが数量限定で販売され、あっという間に完売したという。
二木さんは、「今回は双子だし、シャンシャンのとき以上に盛り上がるという話も、すでに出ていますね。SNSでは緑色のマーカーや、お母さんパンダから赤ちゃんを取り上げるときに使った熊手が話題になったので、赤ちゃんのぬいぐるみとメジャーに加え、緑色のペンや熊手もセットになったりして」と期待をふくらませる。
シャンシャンは生後およそ半年で一般公開されたが、双子パンダ公開のタイミングはいつになるのか。同じように計算すると12月末だが、年末の休園日と重なるうえに、12月いっぱいでシャンシャンの中国返還が決まっているため、年内の公開は難しいのではないかと二木さんは話す。
「コロナ禍中でもあるので、園もシャンシャンと双子を同時に見られるようにして、人が殺到するようなシチュエーションは避けると思います。なので、おそらく年明けの公開となるでしょうね。人々の『シャンシャンロス』を、双子パンダが少しでもやわらげてくれることを祈ります」。
「関西でパンダライフを満喫しよう!」
現在、日本国内で飼育されているパンダは「上野動物園」で5頭(生まれた双子パンダを含む)、和歌山県の「アドベンチャーワールド」で7頭、兵庫県の「神戸市立王子動物園」で1頭の合計13頭。関西ではその半数以上、8頭ものパンダに会うことができるのだ。
シャンシャンの熱狂的な盛り上がりを聞くと、コロナ禍で多少の観覧制限はあるにせよ、比較的ゆっくりパンダが見られる関西にいることが、天国のように思えてくる。パンダは特別なファンでなくとも「かわいい」と感じる人が多いが、どんなところに注目して見ると、より楽しむことができるのか。
「たまに、パンダ好きなのに顔の見分けがつかないと、悩む方がいらっしゃいますが、私も最初は、みんな同じに見えました。心配しなくても、見ているうちに顔や動きの特徴でわかってきますよ。それぞれとても個性的なんです」と二木さん。
例えば、ニンジン嫌いなシャンシャンは、「飼育員さんが小さく刻んで食べさせようとするのですが、先日はそれをお尻に敷いて『証拠隠滅』したようです。そういうストーリーが見えると、どんどん楽しくなってきます。SNSで写真やイラストがいっぱい上がっているので、コメントなどで趣味の同じ人をフォローするのも、楽しみ方のひとつですね」と話してくれた。
そんな二木さんも、写真とイラストを組み合わせた4コマ漫画をときどきツイッターに掲載する。筆者のお気に入りは、座り方がちょこんと上品な王子動物園の「タンタン」と、威厳のある座り方から「社長」の愛称がついたアドベンチャーワールドの「彩浜(さいひん)」を対比させたもの。
しかも「彩浜」は、アドベンチャーワールドで最小の75gで生まれたパンダ。生まれたときは、無事に成長できるのかと心配されていたのに、今は「社長」や「CEO」と呼ばれるほど元気に育ったことを思うと、ファンはいっそう感慨深いのだ。
またアドベンチャーワールドには、2020年11月に生まれた7カ月の赤ちゃんパンダ「楓浜(ふうひん)」がいる。コロナ禍でお客さんが自由に訪れにくいことを考慮して、営業日は毎日、楓浜とお母さんパンダ「良浜(らうひん)」が一緒に過ごす様子がライブ配信されている。好奇心のままに遊具に登ったり、コロンと落ちたり、お母さんの良浜に「遊んで!」とアピールする楓浜の様子は好評だ。
そして和歌山の大家族に隠れがちだが、王子動物園のメスのパンダ「タンタン」も見逃せない。二木さんに「推しパン(推しのパンダ)」は?と聞くと「お嬢様ですね」と即答が。
ほかのパンダに比べて手足が短いタンタンは、体格の関係で寝そべったような「パンダ座り」ができない。人間が椅子に座るようなちょこんとした座り方でエサを食べる姿が上品に見えることから「神戸のお嬢様」と呼ばれているのだ。
タンタンの連載を持ち、毎週同園を取材に訪れる二木さんは最近、タンタンが手で自分のおなかを「トントン」と打つしぐさが気になっている。
「ほかのパンダがこのしぐさをするのは見たことがありません。タンタンは楽しい気分でトントンしているのかなと思っていたのですが、飼育員さんによると暇つぶしか、エサが気にいらないときにすることが多いようです(笑)。体形に関しては、タンタンの両親もきょうだいも、手足が控えめなわけではないので、まさに彼女は唯一無二の存在なんです」とのこと。
パンダたちは、私たちが思っている以上に個性豊かなようだ。
「SNSと名づけでパンダ沼へ」
双子パンダの誕生により、メディアでパンダを見る回数が増えることは間違いない。これからパンダ活動(「パン活」と言うのだろうか・・・)を楽しみたい人は、何から始めればいいのだろうか。
「まずはSNSでパンダを見ることでしょうね。たくさんの方がアップする写真や動画を見ると、自分が動物園に行くだけでは見られないようなしぐさも見られますし、見ているうちに、自分も実際に現地へ行ってみたくなると思いますよ。あとは、双子パンダの名前の公募に応募してみてはどうでしょうか。アドベンチャーワールドの楓浜のときは、私は、生まれる前から名づけ辞典を見て考えていました」(二木さん)
その際に二木さんが応募した名前は「光浜」で、名前選考のラスト3つにも残っている(「光浜」「咲浜」「楓浜」の3候補の一般投票で、得票数の多かった「楓浜」に決定)。今回の双子誕生でも、すでにノートにいろんな漢字を書き出しているという。
実は二木さんは、アドベンチャーワールドで誕生した赤ちゃんパンダ「明浜(めいひん)」と「優浜(ゆうひん)」の名づけ親。
「名づけ親になると、その子のお誕生日などの記念日も、特別なものになりますし、成長を見守るうちに、いっそう愛着がわいてきますよ。いまはWEBからも応募できるので、子パンダの成長を楽しみながら、名前を考えてみてはいかがでしょうか」と呼びかけた。
実は筆者も、楓浜の誕生を機にパンダ沼に落ちたひとりだ。コロナ禍で出かけにくい今、楓浜をはじめとするパンダの写真や動画に、どれだけ心が癒やされたことか。自由に出かけられるのはもう少し先になりそうだが、まずは上野動物園、アドベンチャーワールド、王子動物園のSNSをフォローして、パンダを見ることから始めてみよう。
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