品川ヒロシ、6年ぶりの監督作は「自分が励まされる映画に」

2021.7.31 08:45

メガホンを取った品川ヒロシ監督(左)と、主演女優・EMILY

(写真9枚)

お笑い芸人として活動する傍ら、映画監督として『ドロップ』(2009年)や『漫才ギャング』(2011年)などを大ヒットさせた品川ヒロシ。彼の長編5作目となる『リスタート』は、シンガーソングライターを夢見て上京しながらも挫折した女性・未央(EMILY)が、彼女の元同級生・大輝(SWAY)らに支えられながら再起を果たしていくストーリーだ。今回は品川監督と、フォークデュオ・HONEBONE(ホネボーン)として活動する主演女優・EMILYに、この映画の重要なワンシーンについて話を訊いた。

取材・文・写真/田辺ユウキ

「僕の映画の主人公って、出だしは昔の僕みたい」(品川ヒロシ)

──品川監督の作品は必ず物語の始まりと終わりで人物がしっかり変化していきます。今回は特に、映画的な素養の高さを感じさせました。

品川:主人公の成長は確かに意識してやっています。映画の脚本を書くテクニックとして「セーブ・ザ・キャットの法則」(観客が共感できる人物を主人公にすること)や、「ヒーローズ・ジャーニー」(ヒーローの物語には共通した一連の流れがあること)などがありますが、現状に満足していない主人公がラストに至るまでにどう変わるか、僕の場合はその過程を必ず描くようにしています。成長物語から外れているのは、『Zアイランド』(2015年)くらいではないでしょうか。

──日本映画は登場人物の心情や置かれる環境について「そのままの自分で良い」と肯定するものも多いですが、なぜ品川監督は成長や変化にこだわるのでしょうか。

品川:僕自身が、映画づくりを通して意識を変えることができたからだと思います。昔はテレビに出ていても「おもしろいことを言うのは結局、タレントである俺だから」という考え方でした。「自分がすごいんだ」と思っちゃっていた。でも裏方になって初めて「みんながおもしろくしてくれているんだ」と分かったんです。

映画はスタッフさんがいないと絶対に撮れない。今回はクラウドファンディングで出資もしていただきましたし、映画を作りはじめてやっとそういうことに気づけた。だから僕の映画の主人公って、話の出だしは昔の僕みたいな人間ばかり。そんな人がどう変わるのかを描いていこうと。

川で大樹(右)に背中を押され、未央が歌い出すシーン (C)吉本興業

──劇中で特に圧巻だったのが、未央が大輝に背中を押されて、川に入って歌う場面。本来、あの状況ではなかなか歌えないと思うんです。でも未央の頑なな気持ちを大輝がすべて受け止め、そして言葉を返していく。歌わざるを得ない状況を作っていく。見事な展開でした。

品川:それはEMILYの存在が大きかったです。彼女自身、ああいった状況に追い込まれたとき、実際に歌う人じゃないかなって。もともと未央はEMILYに当て書きして出来あがったキャラクター。「やれ」と言われたら、「やってやる」とハートに火がつく人間だと思ったんです。だからあの川の場面は、EMILYの感情がそのまま表れている気がします。

EMILY:確かに私だったら、あの状況で「歌え」と言われたら歌うはず。葛藤して、大輝に追い込まれて、そしてもがきながらやる。実際、私はあの川の場面では歌いたい気持ちになっていました。「目の前にいる大輝に、私の歌を聴いてほしい」って。

──大輝役のSWAYさんの懐がとてつもなく深いですね。

EMILY:あの場面の撮影時はSWAYとはまだそれほど仲良くなくて、緊張感の方が大きかった。にも関わらず、こちらの感情のすべてを受け止めてくれた。あと何となく、私自身も嫌なことを忘れたかったんですよ。まさに川に流したかったと言うか。

映画『リスタート』

現在公開中
監督:品川ヒロシ
出演:EMILY、SWAY、黒沢あすか、中野英雄 ほか
配給:吉本興業/ハピネットファントム・スタジオ

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